韓国映画『春夏秋冬そして春』
山深い渓谷に囲まれた寺院を舞台に、一人の僧侶の生き様を描いたキム・ギドク監督の傑作である。
主人公の幼年期、少年期、青年期、中年期を、美しい四季の映像と共に、詩情豊かに描いている。特に少年期のソ・ジェギョンと、青年期のキム・ヨンミンの演技が素晴らしい。
修行僧の身でありながら、寺に静養に訪れた少女と恋に落ち、小舟や岩陰で激しく求め合うシーンが印象的だ。思春期の旺盛な性を描くには夏しかないと思わせる説得力が、画面から溢れている。
やがて二人は駆け落ちするが、青年となった元僧侶は、殺人を犯して指名手配となり、寺院へと舞い戻る。荒んだ姿の元僧侶と、哀愁を帯びた紅葉の類似が切ない。殺した相手は、かつて体を重ねたあの少女である。自暴自棄になる元僧侶に、老僧は折檻を加える。裸で天井に吊るされ、打擲に耐える姿がどこか官能的なのは、計算上のことだろう。
キム・ギドク監督は常に、暴力と性を隣り合わせで描いてきた。今作ではさらに「恨」が加えられている。
「恨」を強く感じたシーンが二つある。一つは、罪を受け入れた元僧侶が、寺院の床一面に般若心経を彫る場面だ。人を殺めた刃は写経のための筆となり、殺人犯の顔は敬虔な僧侶へと変わる。その瞬間の演技が目を見張る。
もう一つは、刑期を終えた元僧侶がかつての寺院に戻り、再び修行の日々を送る場面だ。凍てつく山を、仏像を抱えて頂上を目指す姿は、ストイックで神々しささえ感じる。ちなみに中年期の僧侶は、監督自ら演じている。
キム・ギドク監督については、女優への暴行事件に触れないわけにはいかないだろう。複数の女優から、撮影中に性的なシーンの強要や暴力行為があったと訴えられ敗訴。移住先の東欧で新型コロナに感染し、2020年に亡くなっている。
監督の女性観には女性崇拝とミソジニーを同時に感じることが多い。今作のヒロインは妖婦としての役割しか与えられてないのが惜しいが、そんな瑕疵は些末だと思えるほど、命の賛美に満ちていると私は思う。
『キネマ旬報』読者の映画評 落選