脚気をめぐって 日露戦争と漢方撲滅
先日の基礎医学塾では栄養学の歴史を学びました。一冊の本でも、どこに惹かれるかは人それぞれ。参加者各人の性格や関心により、けっこう引っかかる場所がことなるのが印象的でした。
その中でちょっとメモしておきたかったのは、脚気をめぐる問題。よくある話では陸軍・森鴎外と海軍・高木兼寛との対立で、麦飯を採用した高木の海軍は脚気にならず、伝染病説に固執した森の陸軍は戦死者よりも多くの犠牲者を出した、というもの。当時はビタミンBの存在がわからなかったしね~、というのが通常のお話なのですが、どうもそう単純ではないようなのです。
つまり、陸軍内でも結構、一部の識者においてはじつは麦飯が効果的だということは知れていたようなのです。しかし白米食に逆らうと左遷されるということもあり、そのまま日露戦争に突入したということです。
この辺りは、漢方撲滅のながれともリンクしていてさらに興味深い話になります。一般には西洋医学VS漢方医学という対決「脚気戦争」において、西洋医学の優勢が認められ、漢方は効果なし、として撲滅されたと医学史的には語られます。が、この時西洋医学側となっているのが陸軍軍医で、この比較試験ではなんと麦飯を取り入れているのです。海軍との対立軸においては麦飯否定にもかかわらず、漢方との対立軸においてはまさかの麦飯派。あきらかに、当時、有効性を臨床的、直観的にはわかっていたということですよね。そして政治利用にまで応用できている…
決まりきったことのようでも、丁寧に読み比べていくと意外なことが分かるものです。一つの事柄でも白黒のはっきりさせた理解の仕方ではなく、丁寧に詳細を見ていくことの重要性をあらためて感じました。
なお、この漢方撲滅の真相は、寺澤先生の以下の書籍に基づきました。この辺りの詳細に興味ある方は必読です!今日の統合医療の在り方についても考えさせられます。
明治維新・漢方撲滅の実相
寺澤 捷年 あかし出版 2021-02-20