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『詩』音楽の時間です

音楽の時間です
窓ガラスに雨雫あましずくが光ってます
雨が降っていても鳥たちはさえずっているのですね


ターンテーブルはあたかもサーキットのようです
走り出したらフルスロットルです
曲の話ではありません
例えばベートーベンの「月光」であろうと
ZZ Topの「Gimme All Your Lovin'」であろうと
李香蘭の「夜来香」とか
柳ジョージ&レイニーウッドの「雨に泣いてる」だったとしても
誰にも止めることはできません
激しい曲はもちろん激しく
優しい曲は優しいなりに
針はどこまでも走っていきます


ときに激しく窓ガラスを雨が打ちます


ここは街中かもしれません
いえ、田舎の一軒家かもしれません
何より聴くのは誰ですか?
場所なんてどこであろうと関係ありません
高度何千メートルのジェット機の中であろうと
水深何百メートルの潜水艦の中であろうと
気圧や水圧に
ターンテーブルは勝てませんか?
そんなことはありません
あなたに聴きたい曲がある限りは
心臓を 針が刺し続ける限りは


もちろん 性能に差はあるでしょう
それはあなたの問題ではありません
古いものは古いなりに味があるものです
例えば78回転なんてどうですか?
ホーンは時代に似合いませんか?
そのとき楽譜は必要ですか?
例えば長い小説を読むように
あるいは見知らぬ土地の海岸線を
たったひとりで旅するように


お好きなのはラヴェルですか? マーラーですか?
最後に登場するのはやっぱりベルリオーズですね
最近の曲はよくわかりません
Czecho No Republic や SEKAI NO OWARI は好きですが
ターンテーブルに乗りますか?


photo/takizawa


窓に打ちつける雨が上がったら
すぐに夜になるでしょう
今宵は細い三日月が出るでしょう
月食はレコード盤のようですね
歌い出す前に
ソノシートは風に吹かれて飛んでいってしまいます
目の前にかざすと赤い景色が不安です


心も針も
錆びついていると曲が傷んでしまいます
あなたの中の「ラ」の音と
病院の待合室に落ちている「ラ」の音は同じですか?
どこか 誰もまだ足を踏み入れたことのない
荒れ果てた森の奥を抜けたところで拾った音ですか?
それとも昨日、宴会の席で泡を吹いた
シャンパンの空き瓶の底に残った音ですか?


準・メルクルのタクトで紡がれる音たちが
放った窓から出てゆきます
雨が上がってよかったですね


今日は一日音楽の時間です
レコード盤を裏返すというアナログな一瞬が
どんな快楽より至福です
もう一度針を落としましょう
レコード盤にも 心にも




今回もお読みいただきありがとうございます。
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