セッション定番曲その40:Watermelon Man by Herbie Hancock
変形のジャズブルース。何だか楽しい雰囲気の曲で、ジャズロック、ファンク、ラテンなどアレンジして遊ぶことが出来るセッション定番曲です。Herbie Hancock自身も当初はジャズロック、10年後には完全にファンク曲として再録音していました。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:スイカ男
ハービーが少年時代に、シカゴの町をスイカを売り歩いていた行商人の「スイカだよ~」という口上を聞いた記憶をもとに書いた曲と言われています。
そういう少年時代の思い出って強烈に残っているものですよね。もう日本でも行商人は減ってしまいましたが、「石焼き芋~」とか「タケや~竿竹~」の節回しとか記憶に残っていますね。
ジョン・ヘンドリックスが後付けで書いた歌詞の内容は、子供がスイカ行商人の車の後を追い掛けて「待って~」と呼び掛ける内容になっています。
ポイント2:スイカ男の経済効果
「ジャズはアドリブが命」と言う人もいますが、それはそうとして全盛時代のジャズはポピュラー音楽の一種だったので、実際に「売れた」曲はテーマのメロディが親しみやすいものが多かったですね。
「St. Thomas」1956年
「Moanin'」1958年
「Cleopatra's Dream」1959年
「Recado Bossa Nova」1965年
「The 'In' Crowd」1965年
などなど
みんながみんなドルフィーやミンガスを聴いて唸っていた訳じゃないのでした。
この「Watermelon Man」1962年
も鼻歌で歌える調子の良さからヒットして、当時のブルーノート・レーベルを経済的に支えた一曲になりました。ハービー自身も経済的安定を得ることが出来て、だからこそマイルス・バンドに加入して思い切った挑戦をすることが出来た訳です。意外とそういうのって大事なことですね。
ポイント3:ゴスペル
この曲を聴いて「ゴスペル」を感じる人も多いと思います。
ハービーがバッキングで弾いているピアノのリフ、テーマの2菅のハモりの感じ、ソロの歌い上げ、ずっと続く高揚感。ジャズとしては俗っぽいというか、粘っこいというか。
ゴスペルの持つ「精神性と世俗性の良いバランス」のようなものを感じますね。「神様」じゃなくて「スイカ男」についての曲だけど。まるで「夏に食べるスイカ」が尊いもののように思えてきますね。
*ゴスペル警察の方、許してください。
このバランス感覚はハービー・ハンコックがずっと持っているものですね。ジャズファンからすると「フラフラと色々なジャンルに手を出しているヒト」という印象かもしれませんが。
ポイント4:モンゴ・サンタマリアという偉人
この曲が一般にも知られる定番曲になったのは、モンゴ・サンタマリアの1963年のカバーバージョンによる大ヒットの影響が大きそうです。原曲のリズムにあったラテン要素を、思い切って拡大解釈して(俗っぽく)アレンジしてしまいました。みんなで曲名を叫びながら踊れるような、ノリ重視の曲として。本格的なラテン音楽ファンからは敬遠されるだろうし、ジャズファンからすると「何してくれてんねん!?」という感じかもしれませんが、売れたもん勝ち。
ジャズが最初にラテン音楽の要素を取り入れ始めた頃の「郷愁」とか「異国情緒」とか欠片も無いのが、潔いですね。
コルトレーンで有名な「Afro Blue」も実は元ネタはモンゴ・サンタマリアのものでした。
Mongo Santamaria - Afro Blue
ポイント5:ファンク
ハービーは1973年に「ヘッド・ハンターズ」(アルバム名、後にバンドに)でこの曲をセルフカバーしています。奇妙なアフリカ風のイントロ付きのファンク曲として。この時期のマイルスが「踊れないファンク」を作っていたのとは対照的にちゃんと「踊れるファンク」。
ただ、いま聴くとテンポもゆっくり目で、ゆったりと大きなノリのアレンジですね。Harvey Masonのキレの良いドラムが魔術的なウネリを生み出しています。
ジャムセッションでこの曲がコールされた時は、どっちのバージョン(1962? 1973?)をイメージしているかを確認しないと、出だしから大混乱してしまいます。
こっちはかっちりファンク。
ファンク寄りのイメージでジャムセッションのお作法を解説してくれている動画がありました。
【WatermelonMan】ジャムセッションのやり方を徹底解説
ポイント6:ブルース
曲の形態としては変形の16小節Fブルース。5-4の箇所を3回繰り返します。
ブルースってすごいなと思うのは、曲を知らなくても、流れで次はこんな展開と分かってしまうところ。
ゴスペルに寄せた原曲から離れて、思い切ってブルースに寄せて演奏してしまうのもアリだと思います。暑い夏の気怠い感じが出ますね。
Big Mama Thornton、1970年録音
ポイント7:ブレイク
14小節目のアタマにブレイクが入ります。
こういう「みんなが知っているブレイク」って意外と難しくて、誰かひとりだけやらないと「あれっ?」ってなってカッコ悪いし、かといって何も考えずに毎回やっているとダサくなりがちだし、少し工夫が必要ですね。
ソロのバッキングでもブレイクが入りますが、その時にソロを取っている演奏者がその隙間をいかに活かしてカッコいいフレーズや音を出すか。
あるいはあらかじめ打合わせをしておいて、敢えてブレイクを入れない場合を作るか、別のキメを入れてみるとか、単純な進行ならではのアレンジをしてみるのもアリかと。
ポイント7:歌う場合
ジョン・ヘンドリックスが書いた歌詞を下記に転載しておきます。
「Watermelon」はけっこう発音の難しい単語ですね。「w」音、「l」音をきちんと出すように頑張りましょう。
冒頭部分は「お~い、スイカ売りのおじさ~ん」と呼び掛けているので、少し離れた場所にいるスイカ男をイメージして、声を張りましょう。
Bring me one that rattles when you lug it
One that's red and juicy when you plug it
「lug it」「plug it」は韻を踏んでいます。
「lug」は「ぐいっと引っ張る」という意味なので、山積みにしたスイカの山からひとつ抜き出すとプルンと揺れる、鳴る、みたいな感じですかね。
「分かってる?美味しいのを選んでよ!」と。
Hot and bothered, need a little cooling
When I hear your call I start to drooling
「cooling」と「drooling」も韻を踏んでいます。
「drooling」は「よだれが出ちゃう」と意味です。
「暑くてたまんないから、冷たいものを食べたいよ。あんたの呼び声を聞いただけで、よだれが止まんないよ。」
どっちにしてたいした内容の歌詞ではないので、スイカ男の姿を思い浮かべながら歌ってみてください。
なんとJulie Londonも歌っています。
歌詞も違っていて、なまめかしい感じで、売っているのはホントに「スイカ」なのか?と疑ってしまいますね。
Carla Cook、2002年録音
現代的なR&Bという感じの歌唱。
ポイント8:参考:どうやってアドリブを付けるか?
サックスでどういうスケールが合うのか解説している動画ありました。
関西弁で解説してくれているのが、気さくな感じでいいですね。
(デモ演奏は6:00から、アルトサックスなのでキーはDで説明しています)
Watermelon manを超簡単にアドリブする方法
あくまで参考に。
■歌詞
Hey, wa-ter-melon man. Watermelon man!
Hey, wa-ter-melon man. Watermelon man!
Bring me one that rattles when you lug it
One that's red and juicy when you plug it
Do you understand, wa-ter-melon man?
Yeah!
Hey, Wa-ter-melon man. Watermelon man!
Hey, Wa-ter-melon man. Watermelon man!
Hot and bothered, need a little cooling
When I hear your call I start to drooling
Do you understand, wa-ter-melon man?
So sweet, so cool and so red
So green and so nice
Cool you down, just like ice
Take a taste, and see why
If you hot, or dry, just take a slice. Eat your fill
Cool you down! Yes it will
Hey, Wa-ter-melon man. Watermelon man!
Hey, Wa-ter-melon man. Watermelon man!
Hot and bothered, need a little cooling
When I hear your call, I start to drooling
Do you understand, wa-ter-melon man?
Aw, down to the rind! (Watermelon man)
Take out all the seeds! (Watermelon man)
Save the rind for cucumbers. (Watermelon man)
Make some pickles. (Watermelon man)
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Julie London
Ooooh, watermelon man
Ooooh, watermelon man
'Cause he's got the best melons in the land
He's a real good watermelon man!
Everybody digs
Watermelon man
Ooooh, watermelon man
Ooooh, watermelon man
They are just as well as they can be
Makes you almost want to eat the seed
Everybody digs
Watermelon man
Ooooh, watermelon man
Ooooh, watermelon man
I would buy one every day
If you'd only come the way, yeah
'Cause I really dig
Watermelon man