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『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』老いてこそ人生を楽しめる
『NYAD』(2023年)★★★・。
公開:2023年10月20日(北米/日本公開)
公開:2023年11月3日(全世界配信)
IMDb | RottenTomatoes | Wikipedia
年寄りがスクリーン上で頑張る姿にはどこか見え透いたアジェンダを感じてしまうものだが、キャラクターに尋常ならざる精神力や、若者顔負けのフィジカルが伴うと話が変わってくる。『ナイアド』に、有無を言わせぬ共感力が伴うのはそのためだろう。
2009年を皮切りに、60歳をゆうに越える高齢でキューバ沖からフロリダまでの130kmを単独泳破することに挑戦した遠泳スイマー、ダイアナ・ナイアド(アネット・ベニング)。
もともと競泳選手で、26歳のときにマンハッタン島一周の泳破記録を打ち立てた彼女だが、30歳で引退。彼女は30年後、自身が若い頃に失敗した目標に、改めて挑戦することを決意。親友のボニー・ストール(ジョディ・フォスター)をコーチに据え、複数のクルーたちとともに、引退のきっかけになったチャレンジへのリベンジを果たそうと奮闘する。
演出と編集が軽快。
なにせ開始数分後、タイトルコールまでに、前人未到の挑戦を決意するまでをさらっと描いてしまう。時間の使い方が上手い。その後の苦労のことを思うと、時間配分は大事なこと。これは若手ライターのジュリア・コックスの構成力の勝利だろう。題材をよく理解している。
演出には、あの『フリーソロ』(2018)や『MERU メルー』(2015)などの過酷な自然系スポーツのドキュメンリー作品でアカデミー賞にも輝いたアジア系監督コンビ、ジミー・チンとエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ。2人にとって、本作は初の物語映画だ。
物語の大半が海辺、船上、あるいは水中で描かれており、撮影環境に手練れた指揮者でなければ映画自体、出来上がらなかったとさえ思わせる部分はある。主に巨大水槽で撮影したとはいえ、千変万化する自然を相手にした撮影にはもってこいの布陣。安心感がある。
トーンの軽妙さも、特徴的だ。
世間的にも公になった、性的虐待の被害者としてのナイアドの一面は、重すぎず、しかし本人のモチベーションにも明確に繋がっていることをバランスよく語る。説教くさくなりがちなサクセス・ストーリーに軽さも与えているのが、この映画の強み。
そんな脚本と演出のトーンと、主要キャストのパフォーマンスとの組み合わせが、本作の最大の魅力。
なにせアネット・ベニング自身にみなぎるフィジカルがフィルムから溢れ出すようだし、60歳を超えたジョディ・フォスターのキレキレの老体を見ているだけで、ため息をつきたくなる。2人の掛け合いは軽妙で、元気が出る。それだけで、原作のエッセンスが十分に反映されていると思える。
それと、忘れてはならないのが編集だ。映画のキャストの映像に、実際の映像と思われるショットをシームレスに挟み込んでいる演出と編集の妙。ともすれば映画の素材が下手な再現映像に見える危険性をクリアしている点が、さすが。なかなかできることではない。
ただ、注意すべき点もある。
本件、実際の出来事との差異も多い翻案(リンクは「一般社団法人日本国際オープンウォータースイミング協会」の記事)のようだ。
無償労働でナイアドを助けたサポートチームは実際には40人以上いたそうだし、複数の船舶が同伴する一大事業だった。スタッフのミスにより数時間分の公式記録が欠落しており、その際のクルーの証言が食い違っているだけでなく、嵐だったわりには不可解に速いスピードで泳いだことになっている。これにより、水泳協会とギネスでは記録が認められていないのが痛い。極め付けは、作中でも描かれる通り、大言壮語と虚言癖があるのもナイアドの一面。
これらが、この映像化のアワード争いにミソをつけているのが実情。
しかし、2時間ちょっとで人間のすべてを表現しきれたら苦労はしない。踏み込もうと思えば踏み込める題材だけど、勇気をもらえるビタミン剤だと思って摂取するのが、この映画の正しい見方。
「何歳から何をはじめても、遅すぎることはない」
そんな素敵な教訓を素直に受け取った方が、幸せだ。
(鑑賞日:2024年1月8日 @Netflix)