フルカラーの戦争を伝える意義
ここ数年で、ドキュメンタリー映画の視聴環境が急に整い始め、出色の名作たちが多く世に出ています。ぼく自身も、できるだけ多くの作品に触れるようにしていますが、ともすれば追いつかなくなるほど。
「答えあわせ」でもどんどん話題にしていきたいところではありますが、今回、そんな中でも珍しいドキュメンタリー長編について、ピックアップしたくなりました。勢いあまって、ぼく自身もまだ鑑賞できていない話題作を取り上げます。
実際に期待通りかどうか、ぼく自身も含めて、見てからのお楽しみ。
ピーター・ジャクソン監督のドキュメンタリー監督デビュー作が、10月16日にイギリスで公開されたことをご存知でしょうか。
観客・批評家陣ともに満足度がすこぶる高く、要注目なんです。
実は個人的にも、興奮がおさまりません。
『They Shall Not Grow Old(原題)』は、戦後100年を迎えた第一次世界大戦の記録映像の数々を、同作の製作チームが修復・補填・彩色・そして音声を再構築した上で編集したドキュメンタリー作品。
2時間あまりのあいだに、第一次大戦の勃発から終戦までを当時の記録映像と兵士たち当人の発言だけで追いかけています。
大戦にまつわるアートのコミッション活動に従事する団体「14-18-NOW」の依頼からはじまった企画は、もともと30分ほどの長さに収まる予定だったそう。
ところが実際にテスト映像に着手しはじめると、製作と監督を手がけていたピーター・ジャクソンは「とても30分でおさめるべき代物じゃない」と気づいたのだとか。
英BBCでのレビュー、上々です。
そしてこの映画、予告編よりもむしろDaily NewsやiTVなどのニュース映像を見る方が、魅力が伝わります。
まだ観てもいないのに、なぜこんなにも推しているのかというと…。
僕が個人的に好きな英映画批評家のマーク・カーモードが自身のレビューでも話しているのですが、この一作、「精神面」と「技術面」の両輪がきれいに両立しているみたいなんです。
それらのコンビネーションとしての目的と手段が、説得力に満ちているんですね。行うべくして行い、正しい方法が十分に試され、用いられている。その芯の強さに、心を打たれる。
白黒でしか残されていない、戦争に生きた人々の姿。それを最新のテクノロジーで、より身近な姿へと映し出す。当時用いられた1秒16コマ、あるいは8コマのフィルムで撮影されたフッテージに、24フレームになるようコマを描き足して、実際のスピードを復元。
さらに時代考証とライティングの研究を踏まえ、ほぼ手作業で「カラライゼーション」を施すことでフルカラーの映像を完成させています。
「カラライゼーション」の魅力とエッセンスについては、2017年にvoxがまとめたショート・ドキュメンタリーを通して知るといいでしょう。どれだけ大変な作業なのかも、よくわかるはずです。
映像のみならず、音にも力を込めているのにも関心を抱く本作。
読唇術のプロを数人雇って、映っている兵士たち全員の会話まで解析しているんですね。書き上げられた言葉は俳優たちによってセリフとして収録され、環境音と合わせてミックスしている。芸が細かい。
技術というものは、こうやって使われるべきなんです。
戦争の教訓を、身近なものとして学び、感じるために。
だから、見たい。
「芸術」としての意義をうけとめるため、「技術」の進歩を確かめにいく。
思っている通りの作品だといいのですが。
アメリカ西海岸でも、そして日本でも、公開されることに期待しています。
鑑賞できた暁には、改めて掘り下げて語りましょう。
公式サイトは、こちら:
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