『ザ・ホールドオーバーズ(原題)』居残り学生と嫌われ教師の冬休み
『The Holdovers』(2023年)★★★★。
快作。
一見既視感のあるプレミスだが、神はディテールに宿る。
アレクサンダー・ペイン監督、ポール・ジアマッティ主演といえば『サイドウェイ』のタッグチームだ。
そのコンビが、1970年のニュー・イングランドにある全寮制男子学校でのひと冬を描く。休みのあいだ、実家に帰れない数名の学生たちを泊まり込みでお守りする嫌われ教師と、母親に帰省を拒まれた問題児との関係を中心に展開する。
監督の演出はともすれば古臭いが(じわりとディゾルブしながらシーンを切り替えるトランジションは当時から変わらない)、ポール・ジアマッティの活かし方は手慣れたもの。とにもかくにも、主演がいるだけで笑いも温かさも絶えない。
その上、今作で光るのはダヴァイン・ジョイ・ランドルフ。夫を早くに亡くし、さらに戦争で息子を失ったばかりの食堂の料理長を演じる彼女の一挙手一投足が、良い。ゴールデン・グローブ賞をはじめ、今作で多数の賞に輝いているのも納得。アカデミー賞の呼び声も高い。
そんな名演を、長編脚本一本目となる新人ライター(でも御歳59歳)、デヴィッド・ハミングソンのタイトな脚本がしっかりと支えている。急がず、地味なシーンの積み重ね。ロケーションはほぼ学校のみでエコだし、それでいて、数シーンおきに変化を欠かさない展開。早々に登場キャラクターを絞り込んでくれる割り切りの良さもある。
これが初演のドミニク・セッサは、嫌味な10代を地道に演じる。転校を繰り返してきた問題児とは思いきれない大人しさが滲み出てしまっていて、プロット上もそれほど目立ったセットアップがなされないのが惜しいけれど、役者不足ではない。
教師と生徒の関係を描く良作に肩を並べる、昔ながらのコメディ・ドラマだ。『いまを生きる』『グッド・ウィル・ハンティング』『青春の輝き』あるいは『セント・オブ・ウーマン』などにも通じる、冬のホリデーシーズンにぴったりな小品。
以下、並び立つ名作たちの予告を。つくづく勇気づけられる関連作品たちだ。
(鑑賞日:2024年1月12日 @Peacock)