安定思考の理系院生がスーパードライ生ジョッキ缶を生み出し、転身してソーシャル・イントラプレナーになるまで(その④)
こんにちは。古原徹です。
やっと本題のアサヒユウアスストーリーに着手できました。
今回は、森のタンブラーの開発とテスト展開まで書きたいと思います。
なぜサステナビリティに興味を持ったのか
SDGsの社内第一人者になろう
アサヒ飲料でPETボトルの技術者として働いていた2016年、
突然の兼務発令がありました。
アサヒグループ全体の容器包装戦略を考えるために作られた部門で、ここで初めて本社勤務となりました。
酒類だ飲料だ食品だと、縦割りで考えるのではなく、
「飲み物や食べ物をいれる容器包装」という一括りで見ることで、
グループのシナジーを生み出そう。みたいな意図だったと思います。
10年後の容器包装、というテーマで考えたときに、
環境負荷をなるべくゼロにする。
だけではなく、
事業活動によって環境を改善したい。
そんな想いが芽生え、世の中の先行事例を調べ出しました。
そこで知ったのがSDGs。
いくつか書籍を読んだり、セミナーに出たりして、
「これからの企業活動において主流になる(べき)」
と確信しました。
SDGsの前にあったものを皆さん覚えていますか?
MDGs(ミレニアム開発目標)です。
2015年までに達成すべき目標を定めたものですが、
・対象が開発途上国に絞られていたこと
・政府主導の取組みであり、民間企業の経済活動に影響を与える内容が無かったこと
この2点がSDGsとの違いです。
※ということで2030年以降も〇〇Gsが続くことは自明の理なので、
2030年は通過点として捉えるのが良さそうです。
当時、SDGsの社内認知度は体感で1%。
「エスディージーエス?」とか
「読み方は知っているけど説明はできない」
みたいな人がほとんどでした。
知識として知っていることが偉いわけではないのですが、
チラホラ日経新聞などでも取り上げられていた時期です。
おそらく
「自分の仕事とは関係ない」とみんな思っていたんでしょうね。
人と同じことをしたくない僕としては、
「社内で誰もやっていないときから手をつけて、第一人者になって、今後の自分の仕事の軸にしよう!」と決めました。
SDGsと一言で言っても、人間が生きるうえでの全ての領域なので、
自分がどの領域に取り組むかを考えました。
お察しの通り、
使い捨て容器の削減
です。
僕はビールのイベントや、フェス、野球観戦などでビールを飲むのが大好きなのですが、
一杯飲んでプラカップを1個捨てる、という消費に疑問を感じていました。(感じませんか?)
イベント途中、イベント終了後に大量に集められたごみ。
自分たちが楽しむために、次世代にツケを残していいのか。
いや、ダメでしょ。恥ずかしい。
もちろん、使い捨て容器やパッケージを環境配慮素材(植物由来とかリサイクル由来とか)に変えることは、
既存の開発でも行われていました。
※コストアップになるので積極的には推進されていませんでしたが
そうではなくて、
使い捨て自体を無くすため、ビジネスモデルごと変革することを目標にしました。
ルールや仕組みを作ってしまおうと。
このきっかけになったのが、
NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット、の鬼沢さんの講演会です。
僕が影響をうけた講演No.1かもしれません。
鬼沢さんとの出会い
鬼沢さんは、3Rという言葉が世の中に無い時代から、市民活動として環境啓発取組みをされており、
環境省や東京都などの委員も数多く努められています。
元気ネットは、1996年に設立され、行政、企業、生活者をつなぎながら、
持続可能な社会にむけての教育や啓発、具体的なアクションの推進まで実施されています。
何の展示会だったか忘れてしまったのですが、
ロンドンオリンピックによってサステナブルに変革したロンドンについて、のお話を鬼沢さんから聞きました。
特に刺さったのが、ごみ削減を市民と企業が一体のステークホルダーとして取組んでいたことです。
横串をさすリーダーシップが事務局側にあったということもあるのですが、
積極的に企業に提案する市民(クレームとは違います)
それに対してレスポンスし、ブラッシュアップしていく企業。
こんなことを日本でも実現したいと思いました。
こちらの書籍オススメです↓
アサヒビールが東京2020オリパラのスポンサーになったこと
容器包装の技術者として、ゼロイチを生み出せる立場にいること
そんな状況もあり、オリンピックを契機に何か変えたい、と。
具体的には、使い捨てプラスチックカップの削減。
欧州では当たり前の「リユースカップ」を日本でも当たり前にしたいと思いました。
森のタンブラー開発スタート、プロトタイプ完成
どうせイチから新しいリユースカップを考えるのであれば、
機能としてリユースできるだけではなく、
何度も繰り返し使いたくなる、外でも家でも日常に寄り添うエコカップを作ろうと決意しました。
当時、世界をみても環境配慮素材豐作られたリユースカップはほとんどありませんでした。
ニッチ過ぎてプレーヤーがいなかったのかも知れませんね。
いまは増えてきています。
洗って繰り返し使えること
落としても割れないこと
軽量であること
高価になりすぎないこと
これらの条件を満たす素材はやはりプラスチックになるので、
環境に配慮したプラスチック、という観点でカップに使う素材を探し始めました。
植物由来のプラスチックとしては、
バイオマスポリエチレン
という素材があるのですが、見た目がただのプラスチック。
結局イベントで一回使われて、家でペン立てになるか捨てられてしまいます。
自分も家の食卓で使いたいかというと全然使いたくない。
そんな感じで色々迷っていたときに、
本当にたまたまパナソニックさんと出会いました。
きっかけは、
東京2020オリンピックパラリンピックのパートナー企業同士の技術交流会
お互いの技術や知見を交換して何か協業できないか話し合いました。
そこで紹介されたものの一つに
「高濃度セルロースファイバー複合材料」
がありました。
この素材は、
55%がセルロースファイバーという木材由来の繊維
45%がプラスチックであるポリプロピレン
の混合素材です。
成形品のプラスチックを半分以下にできるだけではなく、
セルロースファイバーによってプラスチックの強度を補強できる、という機能性があります。
それ以上に僕が「おっ!」と思ったのが、
見た目が木っぽくみえる、という点です。
技術者の方々は、本質的な特徴や機能が環境に配慮されていることに重きを置いていますが、
僕はそれと同等以上に「5秒で伝わる」ことが大切だと思っています。
成形品のサンプルとして見せてもらったのは、長方形の板、でした。
パナソニックさんとしては、飲食店の樽生サーバーのパネルなどにどうかと思っていたそうなのですが、
僕はそれを見てすぐに、
「この素材でリユースカップ作ってオリパラでごみ減らしましょう!」
と伝えました。
何いっているんだろうと思われたと思いますが、
その意図を伝えるとすぐに乗ってきてくれて共同開発がスタートしました。
キックオフから半年後には、プロトタイプが完成。
パナソニックさんとしてはコップの開発は初めてだったので、
(一応)容器包装のプロフェッショナルとして、がっつり意見、アドバイスし、共同開発をすすめました。
技術者同士でキックオフしたプロジェクトだったので、非常にスムーズに進みました。あと、楽しかったですね。
こちらのプロトタイプを、生ジョッキ缶のところでも触れた
役員向け提案会に「テスト販売させてほしい」と上程しました。
2019年1月の提案会だったので、「生ジョッキ缶」を提案した前月でした。
今思えばよくやりますよね。
「うちはコップ屋じゃないから」と言われるかなと思ったのですが、
・SDGsに貢献
・パナソニック社との共同開発(オープンイノベーション)
・プラスチックごみ削減
などキャッチーなキーワードが刺さったのか、
プレゼン開始5分で
「いいよ、やってみなよ。その代わり最短でテストすること」
と言っていただき、
テスト販売に進めることとなりました。
あとで、「なんであんなにすぐにOKいただいたんですか?」と聞いたんですが、
「SDGs関連の取組みはやらないといけないと思っていたし、
『すぐにやれ』と言われて、尻込みしないか見ていた」
とのことでした。
提案することが目的となっているパターンだと、
『すぐにやれ』と言われると、
「こういう懸念もあるのでしっかり準備してから・・」
みたいな返しになるんですが、
森のタンブラーについては
「ありがとうございます!実は最短でこの日にやりたいと思っていて~」
みたいな感じで返せたので、その後も色々任せてくれました。
今回はここまでとして、
次回はテスト展開・初期PoCなど、
アサヒユウアスができるまでにアサヒビール内で取り組んでいた内容を書きたいと思います。