永遠解く力をください
26年間の命から溢れ出る言葉はキラキラと涙の雫となって心の深い部分へ染み透っていく。
切れやすい糸でむすんでおきましょう
いつかくるさようならのために
作者の笹井宏之さんは26歳という若さで2009年に夭折した歌人。身体表現性障害という病で療養されていた。
身体表現性障害とは、自分以外のすべてのもの、例えば本や音楽、街の風景、誰かとの談話、木々のそよぎ...どんなに心地よさや楽しさを感じていても、それらは痛みや吐き気、痺れなど耐え難い症状をひき起こし、心身に苦痛を与える病。
水銀のからだを 不可視の光がつらぬき
とつ、とつ、と 証明される
私という容器の 不確かな、吃音
『羽化』より抜粋
彼の残した短歌や詩は、どこか現実から離れた遠い景色を感じさせ、その不思議な世界観は寂しさとも痛みともちがう静かな瞑想に包まれている。
それは黄昏時の柔らかな残影が照らす部屋の中で、今は亡き愛する者との想い出を辿るような...
こくこくと酸化してゆく悲しみが
ほのかに部屋に匂うのでした
日々の喧騒を生きる中で、必然的に負の感情もわく。それは自分自身へであったり他者へ向けてのものであったり。傷ついても気づかないふりをし、きれいごとばかりの道へたどりつく自分を、それでもいいじゃないかと肯定して。
わたしのすきなひとが
しあわせであるといい
わたしをすきなひとが
しあわせであるといい
わたしのきらいなひとが
しあわせであるといい
わたしをきらいなひとが
しあわせであるといい
きれいごとのはんぶんくらいが
そっくりそのまま
しんじつであるといい
著者の抱く病への不安。さざなみのように密やかに押しよせる絶望感。「えぇーん(えーえん)」と泣き声が口から漏れるような永遠に寝たきりの状態に縛り付けられた葛藤。
えーえんとくちから えーえんとくちから
永遠解く力を下さい
彼の残した短歌や詩、エッセイがこの『えーえんとくちから』という一冊に収められている。
死ななければならないひとのかたわらで
表紙のうすい本をひらいた
しあきたし、ぜつぼうごっこはやめにして
おとといからの食器を洗う
特にこの本の中のエッセイ『色彩言語/芳香言語』は恋人について書かれ、その曇りのない清澄な感性に深く惹きつけられる。
生きていらっしゃれば42歳になる彼は、今、この世界で何を感じ、どんな言葉を紡がれるだろうか。
花束を抱えるように猫を抱く
いくさではないものの喩えに
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