『イクサガミ』今村翔吾の世界
最初に言うと時代小説が苦手である。歴史は好きなのに小説となるとどうも食指が動かない。
....というこれまでの自分の意識を根底から払拭した作家が今村翔吾氏だ。
彼の時代小説はとにかく、とにかく熱い‼️登場人物達は半端なく魅力的で、ぐいぐいと圧倒される筆致に時代小説ということを忘れて没頭してしまう。
『イクサガミ』は当初三部作の予定だったが、四部作となりそうだとか。今回の第三部『イクサガミ (人)』で最終章と思っていたのだが、またしても気になるところで次回へ持ち越し...となった。
これまでのイクサガミを最初から振り返ってみる。
そしていよいよ今回作『イクサガミ 人(じん)』。
蠱毒(こどく)の戦いは、より強き者が生き残る。武力は言うまでもなく、敵を欺く知力と機転。屈強な参加者達は壮絶極まりない戦いを繰り広げるが、1人減り2人減りとカウントダウンされていく。
帯にもあるようにまさに『全員、化物』。
武勇に優れた者達の死闘は読者を巻き込み、共に逃亡し、絶体絶命の恐怖を味わい、命を繋げられた安堵のため息を漏らす。
そしてそのハードなアクションばかりではなく、なんといっても今村作品で魅了されるのは垣間見える登場人物達の人間味溢れる情感だろう。
彼らにはそれぞれここまで生きてきた過程がある。自身の背負うものを、生きてきた道を、確かめ合うように刃を重ねる。
国籍、人種を問わず人外の強さを誇る彼らの目的はただひとつ。
蠱毒のデスゲームを生き抜いて東京へ辿り着き莫大な賞金を手にすること。
果たして最後に生き残るのは誰なのか。そして何者が、何の目的を持ってこの蠱毒の戦いを主催しているのか。
謎はますます深まりを見せながらついに最終章へと突き進んでいく....。
今村翔吾氏は、時代小説の枠を超えて読者の心を掴む作家のお一人だ。直木賞受賞を受けて全国を回る旅をされた時、本県にもいらした。
勿論県北県南と追いかけてサインや記念撮影もして頂く。気さくで温かい人柄に周りが笑顔に包まれる和やかなひとときだった。
その旅の話やご家族、また本を図書館で借りることについて思うことなど興味深いエッセイを纏めたのが『湖上の空』という一冊。
『本はよくその人そのものにたとえられる。その中に一つの人生が込められているのだから、決して遠くはない表現だと思う。
生きていれば決して気の合う人とばかり出逢うわけではない。奇妙な縁で一生の友人と出逢うこともあるし、一目惚れのように直感で出逢うこともある。
本と出逢う訓練は、人との出逢いを見定める能力にも多少なりとも影響しているような気がするのだ』
『湖上の空』より抜粋