音楽の自由 アントネッロの「聖母マリアの夕べの祈り」
川口総合文化センター・リリア音楽ホール
で、アントネッロの「聖母マリアの夕べの祈り」を聴いた。
指揮:濱田芳通(リコーダー)
ソプラノ:陣内麻友美 鈴木美登里 中川詩歩 中山美紀
アルト:新田壮人 野間 愛
テノール:小沼俊太郎 田尻 健 前田啓光
バス:谷本喜基 松井永太郎
管弦楽:アントネッロ
バロック・ヴァイオリン…天野寿彦 阪永珠水
バロック・ヴィオラ…丹沢広樹
バロック・チェロ…武澤秀平
ヴィオローネ…布施砂丘彦
コルネット・・・細川大介 得丸幸代
サクバット・・・南絋平 野村美樹 生稲雅威
リコーダー・・・織田優子
リュート…高本一郎
バロック・ハープ…伊藤美恵
オルガン…上羽剛史
初めてのアントネッロである。以前から興味はあったが、フォロワーさんが去年の「メサイア」を絶賛されていて、そのときにこの公演を知ったので行きたくなった。
とはいえ6000円なので買うのに躊躇はしたが、行ってよかった。
演奏の質から言えば6000円では安いくらいだ。
リリア音楽ホールは久しぶりに来た。それこそ宇野功芳が跡見学園女子大学合唱団と「魔笛ファンタジー」(CDにもなっている。合唱指揮者の福島章恭さんがパパゲーノの笛を吹いた)をやったときにも来た。
リリアメインホールでは蜷川幸雄の代表作「NINAGAWAマクベス」を見た。
北大路欣也と栗原小巻による仏壇芝居で、この公演の次は唐沢寿明と大竹しのぶで新演出の「マクベス」になってしまった。
その後、再び仏壇演出に戻ったが、そのときの主演は市村正親。
私は市村正親の芝居がやや苦手なので、北大路欣也版の「NINAGAWAマクベス」を見れたのは今でも大きな宝になっている。
話を戻すが、リリア音楽ホールの音響の良さにびっくり。
前半はやたら暑かったが(演奏中にカーディガンを脱ぐ人も)、休憩中にホールの方に告げたら空調の調整をしてくださったようで、後半は体感温度が3℃くらい下がった😅
ありがとうございました😊
ステージ上はライトが当たるからさぞかし暑かったのではないか。
楽団員と合唱団合わせて30人もいない。入場時に温かい拍手が起きる。
なんだかコロナ禍の初期みたいな雰囲気である。
地震や航空機事故など、やけに災厄の多い年初なせいもあるだろう。
美しい音楽を聴けることは決して当たり前ではない。
音楽の有難味、音楽家の存在意義を改めて実感した。
そのせいもあるのか、客席は概ね静かだった。
私のそばの中年夫婦は後半飽きてしまったのか、頻繁にプログラムをめくったりして落ち着きがなかった。
演奏中に音出すのは子供っぽいのでやめてほしい。
大人の振る舞いではありません。
あと、チューニング中に会話するのもやめてね😅
こんなことを書いてるから「うるさ型」認定されちゃうんだね😂
閑話休題。
濱田さんはやけに腰の低い姿勢で「どーもどーも」とセリフをつけたくなるような素振りで入退場。
十字架のネックレスをつけていて、雰囲気はまるで沢田研二?(例えが古い!😅)
黒のジャケットの下はUNIQLOのエアリズムみたいなピタッとした黒Tだった。
合奏と合唱が始まると、その純度の高さにKOされた!
濱田さん、とても耳のいい方なんだなと感じた。
混じりけのない美しさ。オケと合唱の垣根すら超えた調和だった。
タカノのシャインマスカットのパフェが目の前に出てきた感じ!(食べたことないけどね😂)
耳の贅沢!!
濱田さんの指揮ぶりって、うまいかと言ったらそうは思わなかった。
久石譲よりはうまかったけど、やはり途中から指揮者に転向した人は、指揮法とかみっちりやってるわけでもないだろうから、我流の感じになるのだろう(ホリガーとかどうなんだろう)。
それを思えば、ノットなんてかなり棒振りがうまいと思う。
アンサンブル・アンテルコンテンポランで散々現代音楽を振った経験もあるだろうし、棒の表現力が格段に違う。
最近いろんな指揮者を見ていて、左手(利き手ではない方)の表現力にかなりの差があることに気がついた。
下手な人は両手が完全に連動してるから、情報量が少ない。
素人のエア指揮もそんな感じだろう。
棒で拍を刻み、左手で表現を指示するのが指揮の基本だと思うが、左右で違うことをするのが案外難しいようだ。
だが指揮者に一番必要なのは、棒のテクニックではなく、アナリーゼ(楽曲分析)とオケの力を引き出す力だと思う。
いかに説得力をもって歴戦の音楽家たちを納得させ、付いてこさせるか。
今日のリュートの男性やコルネットの男性なんかベテラン感が漂っていて、新米の指揮者が偉そうな指示したら返り討ちにあいそう😅
古楽をやる人は勉強量が半端ないだろう。だからモダンの指揮者はバッハやヘンデルを振りたがらないんだろうね。勉強量が露呈しちゃうから。
でも、私はモダンの指揮者にモダンオケでバッハやってほしいとずっと思ってます😅
濱田さんが凄いと思ったのは、音楽の大枠はしっかり形づくりながらも、その中でのびのび演奏させていたところ。
おかげで、バロック演奏にありがちな「正しさの押しつけ」感は皆無。
のびのびした即興性に溢れた、自由な音楽を堪能した。
楽団員も合唱団員もリラックスしているのか、演奏中にときどき笑顔がこぼれ、その肩の力の抜けた感じがいっそう自由なバロックを醸成していた。
このカリスマ性は紛れもなく濱田芳通の美点で、私はこの人が振るベートーヴェンを聴きたい!と思ってしまった。
東響あたりでこんなプロはいかが?😅
モーツァルト:「魔笛」序曲
モーツァルト:フルート協奏曲第2番
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ベートーヴェンは「運命」や第2番も合いそう。
前半は「笛」がテーマ😅
濱田さんなら、古典派の音楽のもつ様式感を活かしつつ、その中で最大限自由に羽ばたく音楽を聴かせてくれるのではないかと思った。
モンテヴェルディを生で聴くのは2回目。前回は新国立劇場中劇場の「ポッペアの戴冠」(セミ・ステージ形式、鈴木雅明指揮)だったが、字幕がぼんやり出て消える演出でとても目が疲れたのと途中でしんどくなって、休憩で帰ってしまった。
今日は体力充実で、最後まで集中できた。とはいえ、歌詞が頭に入っていたわけではないので多少の飽きはあった。
やはりこの曲は歌詞あってのもので、歌詞込みでダイナミズムが表現されているのかもしれない。
音楽だけだと単調に感じるときもある。
とはいえ、ヴォーカル・アンサンブル・カペラでパレストリーナの「教皇マルチェルスのミサ」を聴いたときは、もっと単調に感じてしまった(演奏はよかったけど)。
アントネッロのサウンドには色彩感があり、柔軟性や躍動美も感じとれた。
楽譜の指示なのかわからないが、楽団員が立ち上がって演奏したり、コルネットが舞台後方に移動して演奏したり、合唱団も声部の位置が変わったりしたので、面白く聴けた。
コルネットを生で聴いたのは初めてかもしれない。
濱田さんは時折リコーダーやコルネットも吹きながらの指揮。
4声部ともソロがあったし、テノールとバスのおじさんの微笑ましい?二重唱とか、いろいろ聴きごたえがあった。
テノールの方は二重唱のあと合唱の位置に戻ってペットボトルの水を飲もうとしたら、いきなり演奏が始まってしまい、譜面をめくるのに時間がかかってしばらく落ちてましたね😅
コンサートはいろんなアクシデントがあるものです😆
終演後の皆さんの笑顔はとても清々しく、アントネッロで演奏できる幸せが充溢してるようだった。
一人一人がのびのび自分の個性を出し、お互いのよさを引き出してもいて、全体としてのまとまりもある。
それはやはり濱田芳通の力だと思うし、「リーダーをあえて置かない」という大胆な戦略をとったWBCの栗山英樹監督にも通じる人間性の魅力を感じた。