今年No. 1? バッティストーニ/東京フィルの圧倒的なマーラー「夜の歌」
東京フィルの第166回東京オペラシティ定期シリーズを聴いた。
マーラー:交響曲第7番「夜の歌」
指揮:アンドレア・バッティストーニ(首席指揮者)
このコンサートはバッティストーニ目当てで行った。聴くのは初めて。
指揮者人生でこの曲を初めて振るというのも楽しみだったし、東京フィルが定期演奏会で取り上げるのも22年ぶりなのだという。
22年前はチョン・ミョンフン?と思って調べたらこれが😅
沼尻さん、いまの方が断然若々しくてかっこいいよね?(高関さんにも言えるけど…😅
私がマーラーの7番を聴くのは高関健/シティフィルのサントリーホール公演以来かも。
私はこの曲が好きだ。マーラーで苦手にしているのは2・8・大地の歌で、1・3・5・7は特に好き。
3番と7番の終楽章なんて同じ作曲家とは思えないほど、かけ離れた音楽。だがそこが、マーラーのぶっ飛んだ喜怒哀楽のなせる業。
さて今日の感想だが、演奏中のお客さんの集中力はかなり高かった(楽章の開始1、2分は飴の音などしたが)。
あまりに濃密な音楽だったので、楽章が一つ終わるたびに山登りを終えたような心境にさせられた。
今年はアントネッロ「聖母マリアの夕べの祈り」、バーメルト/札響のブルックナー6番、下野竜也/広響のブルックナー8番、ムーティ/東京春祭オーケストラの「アイーダ」、ハーディング/都響の「巨人」、ブロムシュテット/N響の北欧プロ、デュトワのN響復帰コンサート、などが感動的だったが、今宵のバッティストーニはそれらを凌駕する出色の出来だった。
相変わらず私は音楽の詳しいことはわからないので分析的な記述にはならないが、「夜の歌」がここまでわかりやすく聴こえたのは初めてだった。
アナリーゼに定評のある高関さんで聴いたときでさえ、「複雑怪奇な交響曲」という印象のままだった。
今日のバッティストーニの演奏は意味のわからない音符が一つもなく、まるでアニメ映画を見ているようだった。
マンガやアニメのような感覚で、ぐいぐいマーラーの物語が入ってくる。これには驚かされた。
バッティストーニの作る音楽はとてもわかりやすく、かといってわかりやすすぎることもなく、喜怒哀楽の色鮮やかなタペストリーが眼前に広がった。
ソロではコンマスの近藤薫さん、ホルン首席の男性が素晴らしかった(舞台半分は見切れ😂)。
今日の演奏は部分を細かく聴くというよりも、音楽全体の猛烈なうねりを体験して感動した。
冒頭からテンションが緩むことがなかった。第1楽章を聴き終えた段階で、帰ってもいいと思えるくらいの充実感があった。
この調子で最後まで行くの?行けるの?と思いながら聴いてたら、本当に最後までその高いテンションを持続させていた。
「今年No. 1?」とか書いたわりにその根拠も示しきれずに情けない話だが、私はやはりブルックナーよりマーラーが好きなのだ。その感情の支離滅裂さ、分裂具合。
ブルックナー的な老化や深化を自分の人生に重ねる人(特に男性)は多そうだ。
以前書いたが、ブルックナーは日経新聞の「私の履歴書」なのだ。成功した人間が振り返る自分史に似ている。
マーラーはもっともがいている。ブルックナーが悟っているあいだも、泣いたり笑ったり怒ったり喚いたり。それが魅力的でたまらない。
私が好きだった演出家の蜷川幸雄は死ぬまで「やんちゃなジジイ」だった。これは褒め言葉である。
老成しなかった。死ぬまで必死にもがいて、果敢に挑戦していた。
マーラーを聴くと(それも上質な演奏で聴くと)、自分もマーラーのような老い方をしたいと思う。間違っても自分史を自費出版で出すような真似はしまい、と。
話を戻すが、東フィルはめったに聴かないので、定期演奏会を聴いたのはプレトニョフの「わが祖国」以来。定期以外なら先月コバケンの「幻想」を文京シビックで聴いた。
今日のような演奏が東フィルの定期会員にとって当たり前だとしたら恐れ入るが、おそらくめったに聴けないレベルの演奏だったとは思う。
オーチャードやサントリーでもやるのでぜひ聴いてほしい!
バッティストーニの凄さは巨匠感のなさにもある。
難しいオペの最中にベテランの外科部長が倒れ、皆が途方に暮れる中、Tシャツにジーンズ姿の青年がちょいちょいって手術を成功させちゃう感じ。
いや、時間かけてリハーサルやってるんだとは思いますよ😅
でも、ブロムシュテットやデュトワのコンサートより私には感動的で衝撃的だった。
曲と自分の距離感ももちろん関係している。大好きなマーラーをさらに魅力的に聴かせてくれた感じ。目から鱗、耳から鱗だった。
スタオベしたいくらいの演奏だった(後ろの人の視界の邪魔かなーとか最近日和ってきてます😂)。
しかし一般参賀はなかった。わりとあっさり拍手が終わってしまった。
でも私はバッティストーニと東京フィルの皆さんにお伝えしたい。ブロムシュテットもデュトワもバーメルトもムーティも超える感動が今日のマーラーにはあった。
最近記憶力がわるくて演奏会のこともすぐ忘れてしまうのだが、今日のマーラーは覚えておきたい。
こんなにもわかりやすい言葉でマーラーが私に話しかけてきたことはなかったのだ。
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