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「AIに代替されてる人がされてることに気付かない、っていう一番怖い状況が来る」サカイエヒタ・カツセマサヒコが考える“代替されない編集力”

先月9月7日、弊社かくしごとと、WEBメディア『新R25』副編集長・天野俊吉さんとの共同企画で、「編集力の拡張」をテーマとしたライター・編集者向けトークイベントが開催されました。会場はnote社の新オフィスに併設されたイベント会場「note place」。ありがたいことに、約60名の参加者にお集まりいただきました。

ゲストにお迎えしたのは、コンテンツ制作会社ヒャクマンボルト代表・サカイエヒタさんと、小説家・カツセマサヒコさん。AIに代替されない編集力とは? そして、巷にあふれる“稼げる”といった情報に飛びつかないための「稼ぎ方のリテラシー」とは? カツセさんのコラムの原稿料は最高◯◯◯万円、サカイさんが心に決めている「絶対受けてはいけない仕事」は…などなど、会場でしか話せない︎トークがメインでしたが、こちらのnoteには、おふたりからOKをいただけた範囲で、内容を一部公開いたします!

「受けるべき仕事の条件」。そしてその“逆”とは…

天野 サカイさん、事前の打ち合わせメッセでも、めちゃくちゃたくさんの“話すネタ”を送ってくれて。

サカイ とんでもない時間に送ってた自覚はあります(笑)。

天野 まず気になったのが、“受けるべき仕事の条件”っていう。会場の人も気になるんじゃないですかね。

サカイ 僕が考える、受ける仕事の条件は3つあって…。

サカイエヒタさん
コンテンツ制作会社・ヒャクマンボルト代表。編集プロダクション、フリーライターを経て、2016年から現職。スモール出版「FANZA BOOK」、失恋するとカット代が無料になる「失恋美容室」、アウトドア専用コーヒー豆「LOCATION COFFEE」などヒット企画多数。ライター、編集者の経験をベースに、さまざまな企画の領域で活躍する

1つ目は、まず発注額がいいっていうこと。2つ目は、依頼してくれた人のことが“好き”。3つ目が、次の仕事を生む仕事であることですね。

この3つがそろうのは、めっちゃ奇跡。

逆に最悪なのが、「地方の社長のブログのゴーストライター」みたいな。原稿料は安いのに、ヒアリングしなきゃいけないからコストかかるし、名前も出せなくて、手柄は全部社長が持っていく(笑)。

天野 めちゃくちゃありそうだな…(笑)。

カツセ エヒタさんの話を聞いて、僕は「実績はタダでもいいから作れ」ってことが改めて重要だと思いました。

カツセマサヒコさん
小説家。小説『明け方の若者たち』『夜行秘密』や雑誌『CLASSY.』『メンズノンノ』『anan』などで連載。東京FMでのラジオでも活躍。編集、ライターから、創作の世界にステージを移している。

カツセ もし今会場に、取材記事を1個も書いたことがない人がいたら、タダでもいいから誰かに取材して、まずはnoteとかで記事を上げたほうがいいです。

それを普段発注してくれている人たちが見たら、案件につながる可能性もある。「こんなこともできるんだ」と思わせることの繰り返しが、結果的にいい仕事、やりたい仕事につながっていくのかなと思いました。

サカイさんが提唱する、キャラクター確立のための「ABテスト」とは?

天野 サカイさんが事前に送ってくれたメモでほかに気になったのは「(自分の)キャラクターを確立させる」ってことで。これはどういうイメージですか?

サカイ 広告つくるときって、たいていはABテストで、どっちが反応いいか繰り返すじゃないですか。

だけど、クリエイターの“キャラクター付け”みたいなときって、一つで勝負しがちだと思うんです。1個のキャラクターで勝負してうまくいかない、誰も見てくれない。なので、ABテストを個人で繰り返すことが大事なんですよ。

天野 えー…具体的にどういうことですか?

聞き手は新R25副編集長・天野俊吉さん

サカイ 自分の中にある「○○が好き」みたいな人格とか特徴ってあるじゃないですか。それを5つに分けて、5つのSNSで出していくんです。

 どんな発信を?

サカイ 「猫が好き」はTwitterで発信するとか。これはnoteだなとか。全部自分のキャラクターだから、ウソがないし、書けるんですよ。そのうち、意外なところでバズったりとか、固定の人からコメントが付くようになったりとか、反応が生まれた。そしたら、翌月は5つのなかで“最下位”の人格をやめて、新しい5つ目と入れ替える…こんな作業を繰り返してました。

カツセ ABテストっていうのは、日々の情報発信でやるんですか? それとも企画とかのなかで?

サカイ 日々やるべきだと思うね。自分が出そうとしているものが人が求めているかどうか、需要が見えてくるから。

 キャラクターづくりをしようとすると、想起するイメージを統一させにいくのが普通だけど、人格を複数つくるのはその逆だから面白いですね。カツセさんも“キャラクターをつくった”経験はありますか?

カツセ 僕は正直、時代に助けられた感覚が強いんですよね…。ただ、意識していたのは「“尖る”じゃなくていい」ってこと。

天野 カツセさんらしい気がする。

カツセ 自分のどこを特化するのか…という話だと大変そうなんですけど、「5角形の総合点」で考えれば、割とオリジナリティが出せるんじゃないかなと。

僕も、特定のジャンルだけだったら他の人に負けると思うんですが、小説も書いて、広告案件もやって、SNSも…っていう五角形を結んだら自分しかいないかな?みたいな。“全ての要素がそろって初めて自分”っていう感覚は強いです。

「読者に好かれるよりも編集者に好かれる努力を」

 以前カツセさんが、「読者に好かれるよりも、編集者に好かれたほうが生き残れる可能性は高い」っておっしゃってたと思うんですが、それも気になるフレーズだなと。

カツセ 読者に好かれる仕事をやっていると、いつか嫌われると思うんです。

 読者に飽きられるってことですか?

カツセ 「こんな人だと思いませんでした!」みたいな(笑)。よくあるじゃないですか。あとは、人気商売になるとインプレッション数で判断されちゃう。

天野 あ~、数字の勝負になっちゃう?

カツセ そうです。数字じゃなくて、「この書き手が好きだから」っていう理由で発注してもらえる存在になったほうが強いと思います。だから、発注者に対して嫌われない努力はめちゃくちゃします(笑)。

 たとえばどんな努力を?

カツセ うーん、喧嘩しないように、ストレス耐性をつくる(笑)。いや、物書きの方ってやっぱりこう…ムカつく相手に、勢いで“言ってしまう”ことも多いと思うんですよね。

 カツセさん、そんなイメージなかったですけどけっこう我慢されてるんですね(笑)。

サカイ あと、発注側の人は陽キャが多いじゃないですか。

天野 そうですか?(笑) まあわかるような気も……。

サカイ そういう人に好かれるのは、「社交性のある根暗」です。マニアックなことを知っていたり、すごくこじらせてたり。“キャラクター”で、そこから仕事の相談が来ることも多いですよ。

AIに「代替」されないために

天野 最近、「AIで代替できるから、(ライターが)記事の単価を下げてくれと言われた」という新聞記事が話題になってたじゃないですか。「編集者・ライターの仕事は、AIに代替されるんじゃないか」という話に対して、お二人はどうお考えになってますか?

サカイ まず、そんなこと言う編集者と仕事するのやめちゃえよっていうのは思います(笑)。

カツセ 相当ブラックな編集者ですよね、それを言えちゃうのは(笑)。

サカイ ただ、ちょっと冷静に考えてみたんですけど、自分が発注側だったら、今AIみたいなものはやっぱり使うだろうし、記事をより強くするために、イラストとか広告費みたいなところにお金を回したいっていう気持ちはすごくわかる。正直、自分もそうするかもしれない。

天野 それは悪いことじゃないですし。

サカイ ってなると、「代替されるのか」で言うと、「されてしまう」のかなと。ただ、ライターに対して、「AIでできるから」とは言わないよね。優しいのかわかんないけど、俺なら嘘をつくかなって思う。

天野 まあ、そうですよね…。コミュニケーションの仕方として。

サカイ だから、「AIに代替されてる人がされてることに気付かない」っていう状況が普通になるんだと思う。でも、それが一番怖いよね。

天野 カツセさんは、この問題どう捉えてますか?

カツセ 僕は普段からChatGPTを使ってますよ。小説のタイトルとかを考えるときに参考にしたくて、AIに聞いてます。

天野 ええ〜! カツセさんの小説のタイトル、AIが考えてたんですか。

カツセ あくまでも参考程度ですけど…。ただ絶対、近いうちに「カツセマサヒコっぽい文章を書いて」ってAIに依頼する……みたいな未来は来ると思っていて。そのときに「っぽい」じゃなくて、「本人に書いてもらいましょう。ここは」って存在になれていればと思ってるんです。スーパーの肉で、こっちはちゃんと和牛です、とシールが貼られているような状態(笑)。「カツセマサヒコ本人が書きました」っていう、「人」に価値があるなら、そこにお金が集まると思うので。

天野 難しいですよね…。“自分らしさ”って。

カツセ 取材記事は、取り組みやすいと思いますけどね。リード文とか質問の深さで「この人しか書けないものがある」と編集者に思ってもらえれば勝ちですから。積み重なっていけば、オリジナリティーになると思います。

サカイ AIの問題に対応するには、大きく二つあると思っていて。一つは、「AIができないことをやる人」になる、もう一つは「AIを使える人」になる、です。

前者は、まさにカツセくんが言ってくれたこと。でも、後者もすごくあると思う。AIって、どうしても編集観点での作業が必要で、問いの投げ方にもセンスが必要だしね。

道具の使い方のセンスがある人っていうのはこれからの時代は重宝される。AIから吐き出されたものをいかにうまく使って、より面白く、より読みやすく、より人が興味を持つような内容にしていくか…そんなことができる「オペレーター」という存在が必要になってくると思います。

トークショー後の交流会もとっても盛り上がりました。

トークは白熱しましたが、ここには出せないお話がまだまだたくさん。今後も同様のイベントを実施予定なので、ぜひぜひご期待ください!

写真:三浦えり
文:中村結(かくしごとインターン)
編集:天野俊吉(『新R25』副編集長)


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