アフリカでは井戸が地域コミュニティを繋ぐ役割をしている
僕は2014年から2016年までの2年間、青年海外協力隊のボランティアに参加してアフリカの小国・マラウイ共和国で過ごした。
せっかく協力隊でアフリカに派遣されたからには、どっぷりと現地の人と同じ生活をしようと決めて2年間を過ごした。
その結果、日本では絶対にできない不自由さを体験することで得られるものがたくさんあった。
特に井戸水を使うことでたくさんの学びを得ることができた。
日本の生活は快適すぎると心の底から実感した。
不自由であることが当たり前になるとそれを改善するための知恵が生まれることも知ることができた。
断水がひどくて井戸を使うようになった
僕が住んでいたマラウイの家には電気と水道が備え付けられていた。マラウイの一般家庭では未だに電気と水道が通っていない家庭が多い。
だから最初は家に電気と水道があってラッキーだと思っていた。
でも実際のところは、停電断水は当たり前で、1日に必ず数時間は停電していた。
2~3日、停電のない日が続いた時は、かえって気持ちが悪かった。
外に出て、お隣さんと挨拶を交わす時の話題は必ず停電の話だった。
「今日は天気がいいね」の代わりに「今日は電気きてるね。」と切り出すのが常だった。
水道は、断水がひどかった。週の半分くらい断水する時もあった。
かといって、最初は井戸水を使うのは嫌だった。井戸は、家から約100メートル離れていて、いつも人が順番待ちをしていたので、井戸へ行って順番待ちをして水を汲む時間が無駄だと思っていた。
しかし、約半年が経って、断水の多さに辟易していた時に経験したある出来事をきっかけに井戸水を利用することにした。
その出来事とは、大量の水道水を無駄にしてしまったこと。
ある日、昼間に水道を使っていると断水してして、そのまま蛇口を開けて閉め忘れていた。すると、真夜中の寝ている時間に水道が復旧して、数時間、水が垂れ流し状態になってしまった。
貴重な水を無駄にしたことに罪悪感を覚えた。それ以来、水道は使わず井戸水を使うようにした。
井戸を利用して良かったこと
井戸水を利用するのは簡単なことではなかった。
毎回20リットルのバケツ二つを満杯にして、片手に一つずつ持って家まで運んでいた。
それを一日最低2~3往復する。井戸はポンプ式で取っ手を約30回上下すれば20リットルのバケツが満杯になった。
井戸水を利用し始めて良かったことは、筋肉がついたこと。両手にバケツを持って毎日100メートルを数回往復するから、自然と両肩から背筋にかけての筋肉がついた。
井戸は地域コミュニティの中心
井戸を使い始めてわかったことがある。
それは、井戸が地域のコミュニティの中心になっているということ。
井戸には水汲みに来る人だけでなく、洗濯をする人もいるし、ただ談笑するために来る人もいる。
そして、子供たちも井戸の順番を待ちながら遊んでいる。水汲みは基本的に子供たちの仕事だ。子供たちは学校から帰ると水汲みと薪拾いをする。
子供は急いでいない限りは、井戸に並んでいても大人が来たら順番を譲る。また、高齢者がポンプ使って水を汲む時は、率先して手伝う。マラウイでは目上の人を敬う習慣が根付いていた。
井戸には自然と老若男女が集まってくる。その結果、皆が顔見知りになって地域で知らない人はいなくなる。
子供が悪さをした時には、近所のおじさんが叱る。
いじめをしようものなら、手を出して叱る時もある。それで誰も文句を言わないしトラブルも起きない。なぜなら、皆、地域コミュニティ全体が家族だと思っているからだ。
井戸を中心とした地域コミュニティって素晴らしいなと思う。
井戸のおかげで子供たちは、年代の異なる大人たちと関わることができる。
その過程で多様なコミュニケーション能力を身につけていくことができる。
これがマラウイで極度に対人関係が苦手な子供や引きこもりの子供に出会ったことがない理由の1つなのかもしれない。
マラウイの子供たちは、基本的に皆、屈託なく外で遊びまわっていて、陰湿ないじめなどはほとんどない。
井戸が教えてくれる幸せ
マラウイでは、水道がない家庭も多いので、必然的に多くの人が今でも井戸水を利用している。
僕も現地の人と同じように井戸水を使ってわかったことは、井戸は単に水を供給するための道具ではなく、世代を超えた地域のコミュニティを作り出しているということ。
そして地域コミュニティがあるから、経済的に豊かではないけれども、みんな笑顔で人生を幸福に生きることができている。
僕は日本で警察官をしていた。
交番勤務をしていた時に、地域の集会で防犯講話させてもらったことがある。
その時に、参加していたお年寄りの方が、「日本は豊かになって何もかも便利になった。その反面、心の豊かさを失って、犯罪が増えた」と話したのを覚えている。
当時はその意味がよくわからなかったけれど、マラウイの井戸を中心とした地域の繋がりを経験して、やっとその意味がわかった気がする。
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