私はなぜ服を買ってしまうのか
「今年の夏は、もう服を買わないんだ!」
そう本気で思っていたのに。ひと夏を越せるくらいの洋服なんて、社会人を数年経験すれば十分持っているはずなのに。
それなのに……この夏の装いとして、白のナップザック、バケットハット、シャツとパンツを買ってしまった。
なーにが「もう服を買わない!」だ。ナップザックと帽子は小物だからまだいい。シャツとパンツ、ガッツリ買ってしまってるやないか。
あんなに自信満々に宣言していたのに、なぜ私は洋服を買ってしまったんだろう?
時を戻して考えてみることにした。
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日曜日の昼下がり、カフェでおやつタイムをしていたとき。注文したタルトの到着を待っていた、わずかな時間でのこと。
それは突然降ってきた。天啓の如く、驚くほど鮮明に脳裏に浮かんできた──少し大きめのブラックの開襟シャツを、同じくブラックのゆったりしたハイウエストのスラックスにインして、ベルトできゅっとウエストマーク。シルバーのイヤリングとバングルをつけて、足元はサンダルでラフ感を出す。夏のボーイなカッコいいスタイル。
うわぁ、めっちゃカッコいいじゃん!ショートヘアーに似合うに決まってる!着てみたい!と思うや否や、スマホを取り出して開襟シャツとスラックスを探しだしていた。
▶買っちゃったポイント①:天啓が降ってきた
その日のうちにいくつか候補を絞った。近くに実店舗があるから、日を改めて見に行こうと思った。
洋服をじっくり見るなら平日に限る。平日の空いたショッピングモールは快適だ。店員さんも余裕があって、休日以上に親切に接してくれる気がする。
目星をつけていたシャツを試してみる。第一希望のブラックは在庫切れだったが、色違いのネイビーが色味もきれいで気に入った。刺繍柄と貝ボタンがとてもかわいい。ボタンを閉めてもよいし、羽織のように着てもよい。店員さんによれば、ボタンをどこまで閉めるかによって、雰囲気を変えることができるそうだ。
1枚で着こなしの幅が広がる優れモノというわけね。私は購入を決めた。
▶買っちゃったポイント②:実物が思っていた以上に優れモノだと実感した
次に、気になっていたリネンパンツを試す。ブラックがなかったため、チャコールグレーとその色違いのグリーンを試そうと思っていた。唐突にグリーンが出てきたのは、色々見ているうちにカラーコーデに挑戦してみたくなったからだ。落ち着いたグリーンなら、初心者でも手が出しやすいと思った。
と、ここで、購入を決定づける出会いが訪れる。
リネンパンツを見ていると、ひとりの店員さんが声をかけてくれた。夏用の涼しいスラックスを探していると伝えると、そのリネンパンツもおすすめですがと言いながら、別のパンツを出してきてくれた。それはシャカシャカ素材の、少しワイドなパンツだった。黒いゴムのベルトがついていて、カジュアル感が強めに感じた。私はキレイめを希望していたので、内心「ちょっと違うんですけど……」と思っていた。
店員さんによれば、そのパンツはとにかく履き心地がよくて、レディースのこの商品を気に入って男性がわざわざ購入するくらいなんだとか。でも……、私はルーズなシルエットのものは要らないんだよなぁ。でもでも……、そんなにオススメと言うのなら、試着だけなら良いかなぁ。
結局、リネンパンツ2色と店員さんオススメのパンツ、合わせて3本を試してみた。
試着は想像を超える感動の連続だった。
チャコールグレーのリネンパンツは、シルエットが美しすぎた。ピタッとせずゆとりがあるのに、適度に脚のシルエットを拾って美しく見せてくれる。
リネン素材なだけあって、涼しく履けた。
グリーンのリネンパンツも、シルエットの美しさはチャコールグレーと同様。ただしサイズが1つ上だったので、足元で少し裾がたゆむ。そのわずかなルーズさが‘こなれ感’となり、たまらん良かった!
そしてカラーパンツは圧倒的な華やかさがあるので、オシャレ度が爆上がりする。一気に上級者感が出た。
シャカシャカパンツは、店員さんおすすめのライトグレーを試した。履いてみてびっくり!なにも履いていないかと錯覚するくらいの軽さと動きやすさだった。
しかも、シルエットがすっきりしていて、キレイ目に仕上がっているではないか!
感動の履き心地とシルエットだった。
店員さんには、シャカシャカパンツがキレイに見えるのは、タックが入っているからという種明かしもしてもらった。なるほど、そういうことだったのか。
さらに、私がパンツに合わせたくて購入したシャツの話を店員さんにしたところ、似たようなシャツをもってきてくれて、試着したパンツそれぞれに合わせてその場でささっとコーディネートを組んでくれた。それがまた絶妙で。鏡の前でウットリ見入ってしまう。
なんだか無性に楽しくて仕方なかった。
チャコールよりはグリーン。でもシャカシャカもいい……。その日は決めきれず、休日に家族を連れて出直すことにした。
▶買っちゃったポイント③:自分の想定外の感動と楽しい体験をした
そして休日。辛口な論評は正確な家族にも見てもらった。
どちらも似合っているけれど、オシャレお姉さんになるならグリーン、汎用性の高さをとるならグレーのシャカパンとの判定だった。
▶買っちゃったポイント④:信頼できる第三者(家族)も良いと言ってくれた
悩みに悩んで、最終的に私は「手入れのしやすさ」で決めた。リネンはアイロンが必須だと思うが、グレーのシャカパンならノンアイロンでいける。ズボラ思考が勝利した瞬間だった。
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こうして私はシャツとパンツを購入してしまったのである。
ここまでを振り返って思うことはひとつ。
天啓とそれに応ずる現物、ナイスな店員さんにすぐに巡り合ってしまったということは、もうそれを買う宿命だったに違いない。
物事がトントン拍子に進むときは、たいてい良いときのはず。買ってしまったのならガンガン着たおせばよいのである。定価での買い物は久々だったが、それでも満足している自分がいる。実物を見て、楽しみと納得感を得た上での購入だったからだろう。
そして言うのだ。
「これで満足。だから今年の夏は、もう服を買わないんだ!」
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