没後190年 木米:6 /サントリー美術館
(承前)
サントリー美術館の館蔵品である木米の《三彩鉢》には、緑・黄・紫の3色の釉が、霞がたなびくように斑状に施されている。
このようなうつわが茶席に登場したら、すぐさま熱い注目を浴びることだろう。中にどんな料理が盛られているか、期待が膨らむものだ。
もてなす側には、盛り付けのセンスが問われそうである。「なにを入れてもよい」というわけでは、なさそうなので……
——ところでこのうつわ、どれくらいの大きさだとお感じになるだろうか?
画像だとサイズ感が伝わりづらいけれど、「鉢」というだけあって、最大径は20.8センチもある。「案外、大きいんだな」といった感想をもたれた方が、いらっしゃるのではと思う。
それもそのはずで、作品解説では、高麗茶碗の一種「呉器(ごき)茶碗」を模したフォルムと推測されていたのだった。茶碗のかたちをそのままに、拡大して鉢としたというのである。サイズに違和感が出てしまうのは、無理もない。
参考として、『大正名器鑑』所載の《久治米五器(くじめごき)》を挙げたい。全体の姿が、たしかに似通っている。
表面に施された三彩の技法・文様が、中国・清代の「素三彩(そさんさい)」を模したものであろうことは以前からいわれてきたが、かたちの由来を高麗茶碗に求めたのは、本展での独自の見解かと思われる。
ホームページの「名品ギャラリー」(2018年)では、このような見解は述べられていない。「木米独自の解釈が加えられたもの」という表現に留められている。
いわれてみると、そうとしか思えない。
作品を観察して、その感触はより強まった。全体像のみならず細部にも、「茶碗らしさ」を示す約束事が踏襲されていたからだ。
高台裏には、笠を伏せたような轆轤成形の跡がある。これは「兜巾(ときん)」と呼ばれ、茶碗の見どころのひとつ。この点は作品解説でも言及され、名品ギャラリーにも画像がある。
さらに、見込を覗いてみると、中心部分が一段深くなっており、いわゆる「茶溜(ちゃだまり)」が設けられていることにも気づいた。
全体のかたちには、轆轤成形後に少しだけ手で側面から押され、姿に調子がつけられているし、口縁も山道(やまみち)状に若干の起伏がつけられている。こういった点も、茶碗を思わせる。
鉢であるならば守る必要もない細部の特徴が、この鉢には、随所に見受けられるのだ。
本作にみられるような「木米独自の解釈」は、そのまま、木米のやきもの全体の見どころであるといってよいだろう。
出品作から、ほかにもいくつか抜粋してみたい。(つづく)