〈新春スペシャル〉2023年の鑑賞「落ち穂拾い」:7
(承前)
■坂本龍一トリビュート展 音楽・アート・メディア /NTTインターコミュニケーション・センター(12月22日)
西新宿から初台の界隈で、3館をハシゴ。ICCにも行ってきた。
故・坂本龍一さんが音楽の垣根を超えて携わってきた、「音」そのものにまつわるメディア・アートの活動を紹介するとともに、生前の音源を用いるなどして新たに生み出されたトリビュート作品を展示する本展。
そのなかに、李禹煥さんの絵が2点、含まれていた。
ひとつは、昨年1月にリリースされた最後のオリジナル・アルバム『12』のジャケット原画。じっさいのジャケットでは、李さん自身の発案で(12でなく)13度傾けたデザインとされている。
クレヨンで引かれた素直な線は、音響の波長のようであり、五線譜のようでもある。そんなはずはないのに、絶えず揺れ動いているように錯覚してしまう絵だ。
そして《祈り》(2022年)は、闘病中の坂本さんに贈られたドローイング。
裏面には、このようなメッセージが記されているという。
ふと気づいたときにいつでもできる、視覚と頭の体操。なにも考えなくていいけれど、クレヨンの単純な線を追っていくうちに、快復を願う友の気遣いがにじんでくる……絵を用いて、こういった励まし方ができるのだなぁ。わたしも絵の前でしばし、線を目で追い、その効能のほどを実感するのであった。
会場には、国立新美術館で開かれた回顧展「李禹煥」(2022年)を、坂本さんと李さんが2人でまわっている写真パネルも。上下をブラックで統一、頭は白髪といういでたちはそっくりで、まるで兄弟であった。
■恭賀新正 -新年を寿く縁起物- /早稲田大学 會津八一記念博物館(12月24日)
2024年の新春を祝して、おめでたい館蔵品が大集合。
まずは露払いの「一富士二鷹三茄子」。ひとつにすべてが詰まった作こそなかったものの、富士、鷹、茄子を描いた書・近世絵画を順に展示。⿃⽂斎栄之《富岳春景》を観て、年明け(※本日)開幕の千葉市美術館「サムライ、浮世絵師になる!鳥文斎栄之展」が楽しみになった。
続いて、2023年の干支・兎と2024年の龍をモチーフとした、主に工芸の作品。
《⼗⼆⽀俑》(唐時代・8世紀)は身体は人間、頭部は動物の俑で、現存は9体。足もとのプレートを確認せずに、どの干支か当てるのも楽しかろう。すぐにわかる顔もあれば、ちょっと厳しい顔も。
干支とは異なるものの、おめでたいモチーフとして7体の《鴟鴞尊(しきょうそん)》(前漢時代・紀元前2〜1世紀)たちが登場。スタイルはバラバラで、ほうぼうからの寄せ集めユニットとなる。
鴟鴞(フクロウ)のかたちをした尊(酒器)といえば、泉屋博古館所蔵のものがよく知られている。真っ先に浮かんでくるこちらのイメージとのギャップが、おかしみと親しみを呼ぶ。
十二支のなかでも、龍をモチーフとした作品は多い。展示する側としては、最もハードルの低いお題だったかもしれない。
この館らしい展示品が「會津八一から届いた年賀状」6点。
早稲田で美術史を教えていた會津八一のコレクションが、この館の収蔵品の基礎となっている。《⼗⼆⽀俑》や《鴟鴞尊》の一部も、もとは八一が蒐めたものだった。
彼を慕う教え子や早稲田の関係者たちが、彼に続いてみずからのコレクションや所蔵資料を寄贈していき、博物館は現在も拡充を続けている。そのなかには、八一からの年賀状も含まれていたのである。
■あいおいニッセイ同和損保 椿絵コレクション展示 百歳万彩 /UNPEL GALLERY(12月24日)
古美術から近現代の日本画・洋画まで——椿を描いた絵ばかりを集めたユニークなコレクションが、毎年、椿の花咲く頃を選んで公開されている。
今年のテーマは「百歳万彩」。奥村土牛、小倉遊亀、堀文子という、それぞれ101歳、105歳、100歳まで長生きした日本画家による椿の絵が集められていた。土牛6点、遊亀、文子が各4点。
描きぶりは三者三様。土牛の、たおやかな叙情をみせる椿。遊亀の、生命感あふれる豪放な椿。文子の、理知的な椿……
とりわけ対照的なふたりが遊亀と文子、その中間に立つのが年長の土牛という構図か。ポスターの土牛《椿花》は没骨で描かれ、にじみの味わいは遊亀に通じるところがある。また、他の絵で土牛がみせている的確な線描は、きっちりした区画意識をもつ文子の椿を思わせる。
同一のモチーフだからこそ、共通性や相違点がつかみやすい点もあろう。
長寿の画家による紅白の花、冬らしいモチーフ。2023年最後の鑑賞にふさわしい展示であった。
——以上、7回にわたって、2023年の鑑賞を「落ち穂拾い」してきた。秋・冬の訪問で、1本もしくは続きもので書きたいテーマに関しては、今回は割愛している。日を改めて、綴っていくとしたい。
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