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小林古径と速水御舟 ―画壇を揺るがした二人の天才― /山種美術館
5月19日の更新分に、こんなことを書いていた。
今年度の山種美術館の御舟展が、まもなく開幕なのである。まだまだ先の話と思っていたら、もう。
今回のテーマは「小林古径と速水御舟 —画壇を揺るがした二人の天才 —」。これがちょうど、あす5月20日からスタートする。狙ったわけでもないのに、非常にタイムリーではないか(7月17日まで)。
——それから2か月が経とうとしており、あす7月17日(月・祝)でちょうど閉幕を迎える。
というわけで、例によって滑り込みで観に行ってきた。
小林古径は、今年で生誕140周年。会場では、その古径と速水御舟との交わりが、代表作とともに紹介されていた。
140年前というと、1883年。御舟は1894年生まれで、差し引きすると古径が11歳年長である。また、画風に対称性がみられるともいいがたい。
だが、似た出自をもち、互いに高めあったふたりの関係は、まさしく「よき友」というべきものだったことが、展示によってよくわかった。
それは、折に触れて挟まれたおのおのの芸術観を示す言葉、そして対(つい)で組み合わせるように展示されたそれぞれの作品の共鳴が、なにより物語っていた。
小林古径と速水御舟の画業には共通点が多くありますが、渡欧体験もその一つ🛳️
— 山種美術館 (@yamatanemuseum) June 18, 2023
古径は大正11年日本美術院の留学生として、御舟は昭和5年ローマ日本美術展の美術使節として渡欧。線描の美に目覚めた古径と、水墨を基調とした作品に挑戦した御舟。比べてご覧ください❗#古径と御舟展 #山種美術館 pic.twitter.com/nsDuMOeWE9
小林古径と速水御舟は11歳の年齢の差がありますが、互いに尊敬し合い、親しく交流しました。速水御舟《桔梗》(右・#山種美術館)は、古径が模写をしたというエピソードが伝わる作品です❗
— 山種美術館 (@yamatanemuseum) June 23, 2023
模写作例とは異なりますが、晩年に古径が描いた《桔梗》(左・個人蔵)とあわせてご覧ください😃#古径と御舟展 pic.twitter.com/YlOA28am8j
言葉のなかには、お互いを称賛するものもしばしば。読んでいると一瞬、どちらが年上だったかわからなくなってくるほどで、それほど深く認めあった、対等な間柄であったことがうかがえた。
一見して似つかないふたつを合わせてみると、意外にぴったりはまる。そういったことはパズルにも、また人間関係においても、しばしばみられるものだ。
芸術への強い意志を前面に出した御舟と、温厚ななかに厳しい美意識を静かに灯した古径は、まさにそういった関係だったのだろう。
ふたりは互いの自宅を行き来して語り合い、ときに連れ立って旅に出た。
古径の《弥勒》(山種美術館)は、京都・奈良ふたり旅のひとコマを絵にしたもの。
5/16は #旅の日。
— 山種美術館 (@yamatanemuseum) May 16, 2023
小林古径と速水御舟は、たびたび一緒に旅行に出かけています。
5/20から始まる #古径と御舟展 では、初期から晩年までの名品の数々に加え、二人の交流を示す作品や言葉もご紹介します。
お楽しみに!
展覧会詳細▶https://t.co/jmnMfyTNze pic.twitter.com/nDMLJ0kmat
奈良・室生寺の玄関口・大野寺の弥勒磨崖仏(鎌倉時代)。絵からは若干わかりづらいが、弥勒仏の下は川。対岸にある大野寺境内の遥拝所からの眺めであろう。
同じときに観た、同じモチーフをふたりとも絵にしている……などということであれば、展覧会的にもよかったのかもしれないが、そうは問屋が卸さない。この弥勒は、古径だけが描いている。
だが、このことからは両者の興味や性質の違いがうかがえるようで、かえってよかったのではとわたしなどは思った。
——このように、ふたりの関係性は「厚い友情物語」と形容できるほどエピソードに富んだ、劇的なものとはいえなかった。
けれども、最後……御舟の早すぎる最期に駆けつけた古径が描きとめたデスマスク(個人蔵)、さらには追悼文からは、ふたりがいかに強いつながりであったか、痛いほど理解できたのだった。
古径は、御舟の作品の箱書を、依頼されてしたためることが多かった。「御舟君の作品が観られるから」というのが、多忙な中でも依頼を受けつづけた理由だった。
没してなお、古径にとって御舟は競い合う同志でありつづけたのだ。
ふたりの代表作も、会場には散りばめられていた。
御舟の《炎舞》(重要文化財)、《翠苔翠芝》(いずれも山種美術館)。
古径の《清姫》(山種美術館)、さらに館外から《極楽井》(東京国立近代美術館=前期)、《出湯》(東京国立博物館=会期終盤のみ)。
古径に関しては御舟没後の動向も追っており、2作家の画業を通観する回顧展としても楽しめる内容となっている。
あす、最終日。
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