古伊賀 破格のやきもの:1 /五島美術館
昨年10月の投稿では、まだ開催前だった本展に関して、以下のごとくに熱弁をふるっていた。
近年は、万能調理の土鍋で声価を高めている伊賀焼。陶磁史のなかでは桃山期の茶陶が最もよく知られ、花生、水指、香合などの作例が残されている。志野や織部といった美濃の桃山陶に比べ、伝世品の数はきわめて少ない。
五島美術館が所蔵する水指《銘 破袋(やぶれぶくろ)》(重文)は、古伊賀の代表作例。館としては、いずれ必ず向き合わなければならない宿命のテーマだったといえよう。
稀少な古伊賀の名品を集めに集め、さらに窯址や消費地遺跡から発掘された陶片を加えた、夢の展覧会である。
展示室に足を踏み入れると、まずは立ち止まって室内をざっと見わたすのであるが、今回はその時点で卒倒しかけた。
壁付ケースの右手から奥にかけて、古伊賀の花生がボン!ボン!ボン!と、等間隔に置かれているのだ。左手には、水指がずらり。どれも、1点だけで大変……というクラスの作品である。
花生はすべて高さ28センチ前後、ほぼ同寸のため、ケース内はまるで街路樹のような連なりとなっていた。リーフレット裏面のレイアウトにも、近い雰囲気がある。
上の写真から、古伊賀というやきものがいかに破格で、異形の造形を誇っているかが、きっと伝わってくるはずだ。
今しがた、わたしは「1点だけでも大変」と述べたけれど、そもそも古伊賀を同じ空間に2点も3点も出せば、そのあまりの主張の強さに、他の作品がたちまち呑まれてしまうだろう。そういう意味でも、古伊賀は「出せて1点」なのである。
対して、本展は古伊賀オンリー。他の作品がいっさい出ないことで、呑まれたり食われたり、ケンカしたりといったことがない。
それどころか、こうして古伊賀水入らずになると、むしろ力を打ち消しあって均衡を生み出すようで、展示室には静寂が漂っていたのであった。爆発的なパワーが充満する、不気味な静寂が……
こんな空間は今後何十年と、いやもしかしたら2度と、味わえないかもしれなかった。(つづく)