東京の猫たち:2 /目黒区美術館
(承前)
「東京の」という部分が “裏テーマ” につながるのだ……と、そんな話をしたけれど、“裏” どころか “頭” のところに、ちゃんとその答えがあるのだった。
本展は、東京にある10の区立美術館による共同企画。
区立の美術館どうしで一緒に展示をしようではないかと検討を重ねた結果、どの館からも出品作を持ち寄ることのできるテーマが「猫たち」だったとのこと。つまり「東京の」が先にあって、「猫たち」というテーマができた。
かくして、江戸絵画、近代洋画、日本画、版画、彫刻など、近代を中心とした多種多様な「猫たち」が「目黒のサンマ」の目黒の地に集った。
出品作は単に「猫」という共通項のみならず、各館の特色を見事に表していて興味深いものがあった。
このテーマで外せないのは、なんといっても台東区立朝倉彫塑館の朝倉文夫による猫たち。会場を入ってすぐのところに高低差のつけられた白い展示台が設けられ、ブロンズの猫たちが配されていた。さながらキャットタワーだ。
《吊された猫》は、こういった配置によく映える。
首根っこをつかまれた仔猫。「もう、観念」といったありさま……と見せかけて、後ろ脚には余力があるようでもあり、機を見計らって、体をひねって暴れだすのではと予感させる。猫を捕まえる人間の腕は筋骨隆々としていて、猫の気の抜けた表情とのギャップがなんだかシュール。
朝倉文夫と同じく、無類の猫好きであった熊谷守一。展示に出ていたのは意外にも水墨が1点。もう1点、三毛猫の油彩が出ていたようだが、こちらは前期展示のみとのことだった。
「犬は従順すぎて、見ていてつらくなる。猫は気ままでよい」といった守一の猫に対する印象、彼が求める猫像(?)が、そのまま、水墨の屈託のない線に乗せられているようだった。
朝倉彫塑館、熊谷守一美術館と同じく、作家の自宅・アトリエが作品とともに寄贈され美術館となったのが、大田区立龍子記念館。
日本画家・川端龍子は「犬派」で、愛犬をモチーフにした絵は多いものの、猫となると少ない。出品作の2点は日光東照宮の「眠り猫」を描いたもの、虎を描いたものと、作品選定の苦心ぶりがうかがえたが……解説にあった「犬派だからこそ、めずらしく猫を描くことにはなんらかの深い意図が見出せるのでは」といった一節には、なるほどと思わされたのであった。
同じく区立の「個人美術館」としては、墨田区立のすみだ北斎美術館がある。
葛飾北斎も龍子と同様にさして猫好きというわけではなかったが、北斎一門、さらには虎にまで視野を広げれば、挿絵を手がけた版本のなかでネコ科の動物をいくつか見出すことができる。本展の出品作も、こういった版本だった。
個人名のない、単に区名のつけられた美術館からも、各館のコレクションの特色・得意分野を示す作品、代表的な作家の作品が集っていた。板橋区立美術館の近世絵画、練馬区立美術館の絵本原画に、世田谷美術館の稲垣知雄、豊島区の小熊秀雄、目黒区美術館の高野三三男や藤田嗣治……
さまざまな猫のすがたに、各館を訪ねたあのときの印象が重なる。
猫をもっと愛でたくなると同時に、個性的な東京の公立美術館をまた訪ねたくなる――そんな展示であった。