”わかってないお客さま” からの批評をどう取り扱えば良いか
なんでもネットのクチコミで評価される時代になりました。
心の健康に良くないので私は年に1〜2回しか見ないのですが、ごくまれに「いやいやわかってないなー!」と思うような、短絡的な批評を目にすることがあります。蕎麦ってそういうものじゃないんだよと。
こういう「わかってない人からのわかってない批評」ってけっこう腹立たしいものです。
どう取り扱えばいいのでしょうか。スルーしますか?
今日は、わかってないお客さまからのわかってない批評は腹立つけど、もしかしたらこういう考え方もできるかもしれないですっていうお話です。
ネットにたった5文字で酷評されたときに思ったこと
以前、自分の店のクチコミを順番に読んでいたら、その中に「つゆ甘すぎ」っていう投稿があったんです。
私はとっさに「はぁ?なに言ってんだろう。わかってないなー」と思いました。
昔ながらの蕎麦つゆの作り方で ”追いみりん(=口みりん)” っていうのがあります。
「もり」のつゆにさらにみりんを足すのです。これが「ざる」のつゆになる。
今はみりんは安価で手に入りますが、昔は贅沢なことでした。
でもこれでは見た目でどちらが「もり」が「ざる」かがわからないので「ざる」にだけ上に刻み海苔を乗せたそう。
今では海苔を乗せる文化だけが残っているのです。まぁいろいろ諸説はあります。
で、うちはこの製法を取り入れています。もりでもざるでもたぬきでも。 ”贅沢に" 追いみりんをしているので、つゆが甘い。
文句があるなら安いおつゆで食べててくださいという話なんです。
しかし腹を立てながらも、なにかと気持ちが揺らぎやすい私はここで一瞬おもいました。
── もしかして同じように思っている人ってたくさんいるのかなぁ。この人の意見は氷山の一角?
心配になってきたんですね。みんな、言わないだけで同じように「あの店のつゆ、甘くて残念だなぁ」って思ってるのかなと。
たぶんこの口コミを書いた人は蕎麦のプロではないです。
毎日のようにあちこちの蕎麦を食べ歩き、自分でも打ってみたり、しまいには畑を借りて栽培までしてしまうようなマニアックな人なら、自分の口にした蕎麦がどんなにまずいと思っても、それを5文字で表現することはまずしないでしょう。
じゃあ、素人の意見だからスルーする?と聞かれたら。
......うちはべつに、玄人に向けて商売をしているわけではない。
いろんな食べ物やさんの中でも、蕎麦って玄人客の多い業態なんですけど、それでもうちに関していうとほとんどのお客さまがいわゆる素人さんで、いわば「よくわかってない人」。
私たちはそういう「蕎麦について深い知見のない人」を相手に商売をしているんですよね。
そんな商売相手のひとりが「つゆが甘い」と言っている。本当に耳を貸さないで良いのかと思ってしまったんです。
ときには作り手からの歩みよりも必要な気がします
飲食店が、お客さまの口に合わせて味や調理法を変えることは珍しくありません。
たとえば天ぷらや天丼。
大昔と比べると衣も薄く、タレも幾分さっぱりしたものが多いです。ごま油のみで揚げているお店も今は少ないと思います。
外国人が日本で飲食店を開くときに、現地の味そのままだと受けないから、日本風にアレンジして提供するなんていうのはよく聞く話です。
こういうのって、もちろん作り手が自分で情報を取りにいくこともあるんでしょうが、中にはお客さまからはっきり言われることもあると思います。
ちょっと味がしつこいとか、クセがキツすぎて食べられないとかって。
で、それに対してお店が「わかってないなー」って一蹴するのではなくて、素直に「もしかして伝統的な揚げ方はもう求められてないのかな?」「日本人はこの香辛料が苦手な人が多いのかな?」と疑問をもち、試行錯誤を重ねるなどしてお客さまの意見に寄せていった。
その結果たくさんの人に気に入られ、お店は今も存続できている、ということもあるんだろうなと。
実際これ、うちで似たようなことがありました。
言われたときはとても嫌な気持ちになりましたが、結果的に変えて良かったです。
そういうこともあるので、先の「つゆ」の件、スルーしてしまって良いものかちょっと悩んだんですよね。
たまたま入ってきた巷の評判であれ、お客さまからの直の要望であれ、ネットの短絡的な評価であれ、言葉や形式が違うだけでいち素人さん(=お客さま)の率直な感想にほかならないわけですから。
もちろんどんな批評も甘んじて受け入れ、変えていくことが正しいとは思いません。
目障りな批評をシャットアウトし、独自の味や製法をかたくなに変えないのは自由です。食通の玄人だけをお客さまにするのも自由。
なんですけど、やはり私たちの商売、お客さまあってのもの。
「わかってない」と一蹴する前に、その不満はどれぐらい多くの人が感じていることなんだろうと想像を巡らせてみることも、ときには必要な気がしました。
仮に独自の味や製法を変えないにしても、なぜこのような味付けなのか、なぜこのような調理法なのかを懇切丁寧に説明するのも、食が多様すぎる現代には有効でしょう。
5文字で料理を批判してた人も、知れば納得で急においしく感じるなんてことがあるかもしれません。
このような作り手からの歩み寄りが少しもなければ、ともすると分かってないのはお客さまではなく、提供する側のほうになってしまうっていうことも、あるんじゃないかと思うんですよね。
ただまぁどんな形でも、批判・クレームっていうのは堪えるし、もうちょっと書きかた考えてよ!とは思います。
ちなみにうちのつゆ、今のところは変えてません。