こんちにちはド・ローカルです。
すっかり秋めいてきました。文学の秋。ノーベルの秋です。今回は「文学」を切り口に、多くの文豪たちが愛し、居住してきた西宮、芦屋の街を紹介したいと思います。
この時期、毎年のようにノーベル文学賞候補に名前が挙がる村上春樹のデビュー作の舞台は芦屋でした。「細雪」の谷崎潤一郎、「砂の城」の遠藤周作、「火垂(ほたる)の墓」の野坂昭如のほか、山崎豊子、小川洋子、宮本輝など、数多くの著名作家たちが西宮、芦屋を小説の舞台として描いてきました。文化や建築、街並みは〝名作〟と呼ばれる文学作品の中に溶け込み、国内外に発信されてきました。
文豪たちが描いた物語の舞台、西宮、芦屋を歩いてみました。
(作家名敬称略)
村上春樹 デビュー作舞台は芦屋
(2015年7月8日付朝刊から)
村上春樹は生まれてすぐ、京都市から西宮市に転居。香櫨園小学校を卒業後、芦屋市に移り、精道中、神戸高校に進学しました。「ノルウェイの森」「海辺のカフカ」「1Q84」などヒット作を連発し、2006年、フランツ・カフカ賞を受賞して以降、毎年ノーベル文学賞の有力候補に挙がります。その原点となったのが群像新人文学賞に輝いたデビュー作「風の歌を聴け」でした。
谷崎の美学が凝縮された「細雪」
(2015年7月9日朝刊から)
関東大震災(1923年)で関西に逃れた谷崎潤一郎は、35年に3度目の結婚をしました。妻松子と暮らした「打出の家」(芦屋市宮川町)は今も残っています。代表作「細雪」は松子一家がモデルとされ、38年の阪神大水害で荒れる芦屋川や西宮市のマンボウトンネルなどが登場します。芦屋にある記念館には約1万2千点の遺品が所蔵されています。
信仰とは何か 遠藤周作 問いの原点
(2015年7月10日朝刊から)
遠藤周作がカトリック夙川教会で洗礼を受けたのは、灘中学校(現灘高校)に入学後の12歳の時でした。多感な青少年時代を過ごした西宮市は、エッセー「心のふるさと」などで何度も語られており、「口笛を吹く時」や「砂の城」などの小説の舞台ともなりました。戦時中の仁川周辺を描いた「黄色い人」は32歳の時の作品です。
野坂昭如 「火垂の墓」の舞台とは
(2015年7月11日朝刊から)
1930年生まれの野坂昭如は、コラムニストとして活躍し、67年に占領下の世相を表した「アメリカひじき」、戦争や空襲、焼け跡の体験を描いた「火垂るの墓」を発表。翌年、この両作品で直木賞を受賞しました。「火垂るの墓」は、神戸空襲で母を亡くした兄妹が、西宮の親類宅に身を寄せ、その後悲劇的な結末を迎える物語です。野坂自身も神戸空襲の後、一時西宮の親類に預けられており、その実体験がモデルとなっています。
この4人のほかにも、阪神間には多くの著名作家が居住し、作品の舞台として描いてきました。山崎豊子、小川洋子、有川浩、宮本輝、谷川流(ながる)の代表作を紹介します。
▼山崎豊子 「白い巨塔」の主人公が居を構えた西宮・夙川
国立大医学部を舞台に、医学界の腐敗にメスを入れた社会派小説「白い巨塔」。主人公の財前五郎の居宅は西宮・夙川=写真=。「庭園燈(とう)に照らされた250坪ほどの庭―(中略)―国立大学の助教授の家としては、贅沢(ぜいたく)な住いだった」と描いています。神戸銀行(現三井住友銀行)をモデルにしているとされる経済小説「華麗なる一族」では頭取の万表邸は芦屋の山手にあり、1万坪に及ぶ大豪邸だったと書かれています。
▼小川洋子 芦屋の洋菓子店「アンリ・シャルパンティエ」
西宮市に住む芥川賞作家小川洋子の「ミーナの行進」は芦屋市が舞台。主人公といとこのミーナらが暮らす洋館は山の手にあり、2人が通った小中学校は山手小、山手中がモデルとされる。あこがれの伯父と入った「阪神芦屋駅のすぐ近くにある、Aという名の洋菓子屋さん」は「アンリ・シャルパンティエ芦屋本店」(芦屋市公光町)で、リキュールを注ぐと、青い炎が立ち上がる「クレープ・シュゼット」=写真=は看板商品だ。
▼有川浩 阪急電車今津線の群像劇
小説「阪急電車」は、「この物語は、そんな阪急電車各線の中でも全国的知名度が低いであろう今津線を主人公とした物語である。」というプロローグから始まります。今津線の宝塚駅から西宮北口駅までの8駅を走るように、それぞれの駅名を章にして群像劇を描き、地元ロケで映画化もされました。有川浩は宝塚市在住。同作を書いた理由を「住んでいる街が好きだ、というシンプルな気持ち」と話しています。
▼宮本輝 「青が散る」に登場した名門テニスクラブ
伊丹市在住の宮本輝が1982年に出版し、映画やドラマにもなった小説「青が散る」に香枦(ろ)園テニスクラブ(西宮市大浜町)=写真=が登場します。大阪の新設大学のテニス部に所属する主人公らが、香櫨園駅から夙川の桜並木を歩き、試合会場に向かうシーンの後、「香枦園ローンテニスクラブは、阪神間では最も大きなテニスクラブで、コート数も二十数面あって夏にはインカレの舞台にもなる名門クラブだった」と紹介しています。
▼谷川流 聖地巡礼のファン絶えない時計塔
西宮市出身の作家谷川流(ながる)が母校の西宮北高校(同市苦楽園二番町)などをモデルにした人気ライトノベル「涼宮ハルヒ」シリーズ(2003年~)。06年のアニメ化以降、〝聖地巡礼〟に訪れるファンが絶えません。中でも主人公キョンらが待ち合わせをする阪急西宮北口駅前の「北口駅前公園」の時計塔=写真=は、09年の公園改修工事の際に一度撤去されました、復活を望むファンの熱い思いに応え、2014年4月、西宮市が再設置しました。
今回紹介した作品は、文豪たちの一部に過ぎません。大阪のベッドタウンのイメージが強い、西宮、芦屋ですが、実は、「文学の宝庫」とも言っても過言ではない地域なのです。文学の秋、こんな視点で、西宮、芦屋の街歩きをしてみてはどうでしょうか。
<ド・ローカル>
1993年入社。ノーベル週間が近づく、この時期、神戸新聞では、村上春樹の受賞を想定した予定原稿準備が始まります。この作業が始まってもう何年が経過するのでしょうか? 以前、ハルキストが集まる喫茶店に取材に行ったことがあります。発表直前、なんともいいがたい空気に包まれたのを思い出します。
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