見出し画像

『おふくろが呆けました』〜③金庫の中のお金が消えた?

2019年3月の日曜日。

いつものようにおふくろの自宅を訪ねると「しげちゃん、お金を預かってくれているんだよね」突然のおふくろからの言葉に、「えっ、お金!何を言っているんだ?」私はおふくろのお金なんて知らないし手も付けていない。「さっき見たら金庫に入れておいたお金が無くなっている。てっきりしげちゃんが預かっているものと思っていた」と言うが、私は金庫の中のお金には手をつけていません。

この事件の数日前、何かの時のためにとおふくろの銀行預金から現金を引き出し、自宅の金庫に入れておいたのです。

金庫は外見からは誰が見ても分からないようにしてあります。その中で現金が消えた。泥棒が入ったというのか?しかし家の中の様子は何も変わっていない。誰かが家の中に入った様子はない。それではお金はどうした、どうして消えた。困った。

万が一他人が侵入したというのであれば、お金はともかくおふくろの安全・生命が心配だ。しかしどう考えても、どう見直しても他人が侵入した形跡はない。

何度も、何度もおふくろには「金庫の中のお金に手をつけていないのか」と聞いたのですが「知らない、触っていない、誰かが入ってきて持って行ったんだよ」と繰り返すばかり。どう見ても、どう考えても私と弟の家人以外の人間が侵入した痕跡は見られない。

それではお金はどこにいった。

家中を探す。押入れ、たんす、戸棚・・・毎日毎日探すが見つからない。弟にも話をして探してもらう。警察に通報したほうが良いのかと頭をよぎるが警察に通報すれば私たち兄弟が捜査の対象になるのだろうか?疑われるのだろうか?事情聴取などで時間を取られ束縛される日々が待っていると思うとうかつに警察への通報というのは考えてしまう。この状況をどうしたらよいのか戸惑う気持ちしかなくなっていました。

そんな中、一週間後の日曜日の朝、弟から私の携帯に電話がありました。「お金が見つかった、金庫とは違う場所に小分けにした袋を見つけた。中を見るとお金が入っていた」と言うのです。

すぐにおふくろの家に行き現金を確認する。おふくろに再度聞いてみるが「自分は知らない、そんなことはしていない」を繰り返すばかりでした。本当のところ真相は分かりませんがこの状況を考えるとおふくろ以外にこのようなことをできる人はいません。どう考えてもおふくろがやったとしか考えらないのです。

後に主治医に聞いたところ「年を取った人は特にお金にこだわりをもつ人がいる。若い時(戦争中、戦争後)のあの貧困の時代を知っている人は特にお金が無くなる事の恐ろしさを人一番知っている年代である事。認知症が進むとともに自分でも意識しない中でお金に執着をすることがある」と聞きました。まさにこの事件がその一端だと思っています。そしてこの日を境にお金についての事件をたびたび引き起こすことになるのです。

お金についてはこの事件の後も様々なことがありました。そしてその都度私が対応をすることとなるのです。

ある日の事、自分で銀行に電話をしてお金を引き出していることが分かりました。おふくろの銀行通帳を見せてもらうと数十万円が引き出されているのです。一人で銀行まで歩いて行ってお金を引き出したとはとても思えません。ましてやキャッシュカードは私が保管をしていたのでお金を引き出すには通帳と印鑑を使い窓口から引き出すしかありません。

そんなことが今の状態でできるのだろうか、よくよく聞いたところ銀行に電話をしたというのです。地元の信用組合では長い付き合いがあるという事から銀行印だけで指定された金額を自宅まで持ってきてくれたようです。その引き出したお金は何のために引き出したのか、今その引き出したお金はどこにあるのかを聞くとそのことについては覚えていません。とにかく手元にお金を置いておかないといけないという気持ちで一杯のようでした。

後日これらのお金はいろいろなところから見つかるのですが「お金がなくなった。」「誰かが家に入ってきている。」「お金を取られると心配だからこの家から出られない。」という論法で次第に家から出ようとしなくなりました。この頃は週二回の入浴と一回のリハビリを行っていましたがどうやらこれらの事が嫌でお金の盗難にかこつけて休みたがるようになってきていたのです。

この件以来おふくろの了解を得ておふくろの銀行関係のもの、通帳と銀行印は私が預かることにしました。お金に執着していることは分かっていたためお金は必要なだけいつでも引き出せることを伝え、おふくろが言う金額はすぐに引き出して渡すようにしました。お金を渡しても翌日には失くしてしまいます。失くすというかどこかにしまってしまいその場所を忘れてしまうのです。

そんなことが何度も続いたので渡したお金は一緒に財布に入れて引き出しやタンスにしまうようにしたのですが、一人になるとそれらを片付けてしまいどこにしまったか忘れてしまうと言う繰り返しでした。

そんなことが続いたのでお金を渡した日には金額をカレンダーに記すようにし、カレンダーを見せては何月何日に何万円と確認をするようにもしました。いつものように言われるままお金を引き出して渡すと数日後に再度お金の要求があったためカレンダーを指差し「3日前に○○円渡したでしょう。あのお金はどこにしまったの?」と聞くと必ず返ってくる言葉は「知らない、貰っていない」というものでしたが渡したお金はこの部屋のどこかにあるという思いもあり、それほど重大な問題としてとらえることはありませんでした。案の定おふくろの衣服などの整理でタンスや引き出しを開けると数万円単位でお金が見つかることがありました。

いいなと思ったら応援しよう!