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理想のブランドは、タモリ?深める・浅める、これからの価値の届け方。前編

マガジン <小さな観光論>
今回は、観光・地域にかかわらず、ブランドの価値の届け方についてです。少し長くなってしまったので、前編・後編でお届けします。後編は実際の事例の紹介をしていきたいと思います。

深めて、深めて、深めすぎて。そして、誰もいなくなった。

『この1mmを削るのに、長年の企業の訓練と努力と汗と涙が詰まっているんです!!』それが、もはや、人にはほぼ知覚できないくらいの技術だったとします。

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「とてつもなく、すごいことは、わかる。でもその価値、伝わらないよー!(涙)」そんな風に、叫び出したくなる時があります。

ブランドそのもの、あるいはブランドのコンテンツが、こだわりを通り過ぎ、わかる人が誰もいなくなった・・・。状態になってしまっている時です。

「お前のような初心者は、お呼びでないのよ!わかる人にわかれば良いのだ!」と言われてしまったら、おしまい、なのですが。私だって興味を持つかもしれないじゃない。教えてくれないなんて、ちょっといけずだなぁ〜。なんて、思うのです。(笑)


深めて、浅めて、歴史の面白さを伝える。COTEN RADIO

大好なpodcast番組があります。「歴史を面白く学ぶCOTEN RADIO(コテンラジオ)」です。毎週の配信を楽しみに聞いていて、歴史を深く、かつ楽しく、伝えてくれる番組です。

深井さんヤンヤンさん樋口さんという3人のパーソナリティーが、「歴史」という広く深い海を、自由に泳いでいるようなイメージなんです。時には水深200mの深海に、時には浅瀬に、戻ってきたりして。

歴史に詳しい深井さん、ヤンヤンさんは水深が深いところを、自由に泳ぎ回っている。一方、歴史弱者(と番組でおっしゃっている)樋口さんは、浅瀬でこちらに手を振って見せてくれたり、ボンベを背負って、2人が待つ深海に潜ったり、みんなでちょっと浅いところまで移動してみたり。

深める、浅める、をとても心地よく行き来してくれる番組なんです。

コテンラジオは、「浅め」てはいるけれど、決して「薄め」ていないところが面白い秘訣なのではないかと感じます。浅瀬の水をぺろっと舐めてみたら、めちゃくちゃ塩分濃度が濃くて、塩辛い。

歴史好きにの深い人にも、歴史弱者の浅瀬にいるわたしにも、歴史のドアを開いてくれて、発見や学びをくれる。そんなコンテンツ(ブランド)で素晴らしいなぁと思い、日々楽しく聴いています。

「浅める」と、「薄める」の違い。

なんだか言葉遊びみたいになってきましたが(笑)

浅める=濃度を保ちながら、浅い状態。面白さそのままに、浅めている。
薄める=濃度が低くなり、薄くなってしまう状態。面白さも、薄まっている。

上記のように、私は解釈しています。

良い事例があります。TV番組の、マツコの知らない世界です。『深める・浅める番付』があれば、ぶっち切り一位で、表彰状を授与したいコンテンツです。マニアックなゲストの深い知識を、決して薄めることなく濃密なまま、お茶の間へ。見終わった後、私たちは、鯉のぼりやオカルトにちょっぴり詳しくなったり、興味をもったり・・・。知的好奇心を刺激し、自然な形で知らない世界へ連れ出してくれます。

他にも、深める、浅める、の話で非常に学びがあったのが、ほぼ日ので行われた、皆川明さんと糸井重里さんの対談記事です。

とてもおもしろいので、ぜひ全文も読んでほしいです。(以下一部抜粋)

糸井:だってハワイの魅力を伝えるのに、「あそこの秘境の村には‥‥」
とか言いあってもしょうがないんです。「行こうよ、ハワイ。常夏よ」で十分。そこまで戻る勇気が、みんながインテリになっちゃうと、どうしてもなくなってくるんですよね。

皆川:そうですね。

糸井:例えば、ミナの洋服のことを、「ずっと着られるから好き」って言ってほめる人がけっこういますよね。

皆川:はい。

糸井:それって、服の魅力の伝え方としては、「浅めた言い方」ですよね。だって、ずっと着られるものが服の価値というわけでもないのに、みんなが「そう、ずっと着られるの」って言うのは、すごくいいなあと思うんです。

皆川:たしかに入口のステップは、なるべく軽やかなほうがいいですね。そのほうが「着てみようかな」とか、「行ってみようかな」というふうになります。

ほぼ日 つくりつづける。考えつづける。より一部引用)

『入口のステップは、なるべく軽やかなほうがいい。』

重苦しいわけではなく、軽すぎるわけでもなく、「軽やか」。皆川さん、さすが・・・!と思わずひとり膝を打ってしまいました。

実はとても面白いコンテンツなのに、入り口が重苦しく、インテリすぎて、はいっていけない。もしかしたら、熱烈なファンになる可能性もあるのに。そうやってブランドにとっても、ファン予備軍にとっても、可能性を潰してしまっていることって、あると思うんですね。(その先にあるのが、冒頭の、そして誰もいなくなった・・・の状況。)

目利きと、目利かず。両方を喜ばせる必要がある。

能の世阿弥の考え方に「まことの上手は目利かずを見捨てない」というものがあります。「目利かず」というのは、文字通り、目利きの反対、目利きではない人のこと。世阿弥は、「風姿花伝」にこのような言葉を残しています。

(原文)
得たる上手にて、工夫あらん為手ならば、また目利かずの眼にも面白しと見るやうに能をすべし。
(訳)
真の上手で工夫のある為手(能の役者)であれば、目利かずが見ても面白いと見えるように能をすることができる。
(『風姿花伝』[第五]奥儀云)

(中略)

本当の上手は、心の工夫と技の練磨によって目利かずの眼にも面白いと映るようにできなければダメだ、と言っているのだ。初めから目利きの客はいない。客を選ぶことなく目利かずをも虜にすることによって次代の目利きを育て、長期的繁栄の連鎖をつくることができるようになるのだ。

(中略)

目利かずの目が開いてきて、だんだんと能のファンになっていくのだ。為手の方も、注目を集めることにより、目利きも目利かずも含めて多くのチャレンジに恵まれ、さらなる成長の機会を得ることができるのである。

片平 秀貴. 世阿弥に学ぶ 100年ブランドの本質より引用

目利きがずを、ファンへ。もはや、役者と共に、能の"オタク"へと共に成長していく。この行為や過程が「浅める」ことであり、ブランドが存在する意義でもあるのではないかと考えています。

深める・浅めるのプロフェッショナル。タモリさん。

好きな芸能人は誰かと聞かれたら、タモリとオザケン(2人は仲良し!)と答えるほどに、私はタモリさんが大好きです。

タモリさんこそ、深める・浅めるの達人だと思います。笑っていいとも!では、千差万別のゲストを迎えながら、お茶の間と一緒に楽しめるようにMCをまわし、ブラタモリでは、ビギナーも研究者も唸る知的さを披露し、タモリ倶楽部では、マニアックな音楽ファンを大喜びさせる。

深海と浅瀬を、それも、北極から南極まで、いくつもの海をまたにかけ、ダイブする。それがタモリさん。(だと私は思ってます笑)

いつだって色んなジャンルの海にフラットに心を開いている。そして、おいしいものをおいしいと、美しいものを美しいと、格好つけずに素直に言う勇気のある人だと思うのです。タモリさん・・・。リスペクト。

ブランドは、タモリさんのように。軽やかに、深める・浅めるを行き来して。

もちろん、世阿弥でいう真の役者=ホンモノの価値を作ることが、大前提ではありますが。ある意味、深い人たちは、適切な伝え方をすれば、すぐにファンになってくれます。「目利き」は、ブランドの価値を多く語らずとも、わかってくれるからです。

しかし、「目利かず」にも届けないことには、世阿弥いわく真の役者とは言えません。実は、こちらの方が工夫が必要ですよね。

では、「目利かず」にブランドの価値を伝え、ファンになってもらうには、どうすれば良いのでしょう?それは、タモリさんのように深める・浅めるを振り子のように行き来して、ブランドやコンテンツを作っていくことが、大切なのではないかと考えています。

タモリさんと、いろんなジャンルの深い海、潜ってみたくはありませんか?(笑)

それには「私たち、こんなにも拘っていて、こんなにも深いんです!」ではなく、「綺麗な海があるから、共に深くまで潜ってみませんか?」という、とても素直で、軽やかなスタンスが必要だと思うのです。

深めっぱなしでも、浅めっぱなしでもなく、深める・浅めるを振り子のように行き来する。

では具体的に、どうすれば良いのか?事例を交えて、考えてみたいと思います。

少し長くなってしまったので、続きは後半へ続きます。次回は、深める・浅める、事例編です。

後半も書きました。よろしければぜひ。


最後に余談。なぜタモリさんは色んな海にダイブするのか。

ここからは完全に私の仮説です。笑

なぜ、タモリさんはあんなにも楽しそうに、色んなジャンルの海に飛び込み、色々なものを好きになり、深めたり、浅めたりできるのでしょうか、

それは、深くも浅くも、自由に泳ぐ面白さや、海と海が実は繋がっていることに、気づいているからなんじゃないかと考えています。

海と海、いわば、世の中の点と点がつながる瞬間の快感や喜びを、知っているから。その喜びって、とてつもなくて。なんだかちょっと、世の中の真理を覗き見したような気分になるんですよね。(笑)

能の本を読んでいたら、浅めると深めるの話に繋がったこと。オザケンを聴いていたら、なんとなく村上春樹に繋がったこと。自転車の歴史を調べていたら、飛行機の歴史にたどり着いたこと。いろんなジャンルに潜っては上がってを繰り返すと、思わぬところで点と点がつながる。そんなことが起こるんですよね。

タモリさんは、だれよりも、その楽しさを知っているのかもしれません。あくまでも、想像ですが・・・。

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マガジン <小さな観光論>とは

私は現在、温故知新という会社でホテルのプロデュースや企画を、熱海と宮崎県都農町ではまちづくりや観光マーケティング・ライティング等のお仕事をしています。

私の実体験をもとに、観光や、まちづくりに関する、ちょっとした学びや発見をシェアするマガジンをはじめてみました。少しでも、皆さんの関わる地域に持ち帰って頂ける、ささやかな知恵と出会っていただければ、嬉しく思います。

▶︎TwitterやInstagramでも、観光やホテルについて発信しています。








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