見出し画像

魅力的な商品には、必ず"新しい"名前がついている

空港は商品開発者にとってアイディアのテーマパークです。
その土地の名産品、郷土料理、流行、独自性…食材の生かし方だけでなく、新しい「言葉」に出会える楽しさがあります。

先日、羽田13:25発で旅行に出かけました。空港には1時間以上早く到着し、空港中の商品を見るのが私の楽しみです。今回は自分のお昼も兼ね、羽田中の空弁そらべん(空港の弁当)を観察してきました。空弁は地方の食材が凝縮されているので短時間でその土地の特色を感じることができます。また、空港や機内で食べやすいサイズでまとめるアイディア性の部分でも参考になります。いわゆる幕の内弁当タイプだけでなく、サンドイッチ、おにぎり、サラダタイプまで様々。1Fの到着フロアから5Fのレストランエリアのテイクアウトまで隈なく調査すると、あっという間に搭乗時間を迎えるでしょう。

さて、今回気になった空弁は北海道産直ブース 佐藤水産の「鮭ルイベ漬盛り海鮮弁当」。ルイベ…?聞き慣れない名前です。
見た目から「生鮭の寿司弁当だろう」と想像できました。"とろける食感と濃厚な旨味が自慢の味"という商品説明から、濃厚な鮭の味も想像できました。でも、絶妙に引っ掛かり(疑問)を感じさせるネーミングから、「ルイベ漬けってなんだろう。特別においしそうだな」という強い欲望が湧き上がりました。¥1,380。決してお値打ちではないのに、気づけばお買い上げ。実に綺麗な購入プロセスに、自分に起きたことでしたが感動しました。ルイベという名前がここまでこの商品の魅力を高めたのか…と、言葉の重要性を強く感じる事案となりました。

鮭ルイベ漬盛り海鮮弁当

さて、『ルイベ』とは冷凍したサケのことです。冷凍後、解凍せずに刺身で食べるのが通常で、口に入れた時のシャリと凍った食感と、口のなかで次第にトロっと溶けていく味わいを楽しみます。ルイベはアイヌ民族発祥の料理と言われています。アイヌの人々は貴重なタンパク源としてサケを捕獲し、寒さが厳しい冬に備え、サケを雪に埋めて凍らせて保存していました。それを凍ったまま薄く切り分けて食べていたことが、『ルイベ』の発祥とされています。まさに、北海道の気候だからこその調理方法です。

実際、冷凍することで独特のとろける食感や味わいが生まれます。また、冷凍解凍によりサケの繊維が壊れるため、調味料が染み込みやすくなり、漬ける調理法がよく合うようになります。よく調べてみると現地 新千歳空港でも人気の空港飯ランキングに掲載され、お土産としても評価の高い商品でした。(本当においしかったです!)

さて冷凍するとおいしくなるとはいえ、商品開発において一度冷凍を挟むのは工賃がかかりますね。でも、よく考えてください。冷凍すれば、製造数に合わせて解凍できるので食材コントロールが可能です。廃棄が少ないので、工賃はかかっても食材費は減らせます。一度冷凍することを「とろける食感のため」とお伝えすれば、それが付加価値となり高単価で販売できます。廃棄が減るという点でSDGsをアピールこともでき、まさに現代にあった優れた商品だと感じました。

でも、このサケを「冷凍サケ弁当」というネーミングにしていたらどうでしょうか?ネガティブな印象が強くなります。氷結鮭でも、冬眠サケでも、フローズンサーモンでも違います。『ルイベ』という全く想像のつかない、どこか疑問を感じる名前がついていることがこの商品の魅力を高めている一つです。

魅力的な商品開発に必要なこと。
それは、新しい名前つけることです。それも、聞いて「?」と思う、遠いところからネーミングしましょう。そのアイディアは郷土料理や伝統文化など、灯台下暗しであなたの身近に溢れているのかもしれません。

でも、ネーミングって難しいですよね。私も料理名をつけるとき、ただ食材と調理法を並べた「秋茄子と椎茸のゆず餡掛け」みたいな名前をつける時があります。レストランなどでは、わかりやすい料理名をつける方が親切な場面もあるでしょう。だから、無理に新しい名前をつけるだけが正しいとは思いません。
でも、ネーミングすることによって料理が輝きを増すのも事実です。新しい名前は相手にも忘れ難い体験を届けてくれます。言葉は出会った分だけ、血や肉になります。私もまだまだ知らないものが多く、毎日本を読んだり出かけたり勉強する日々です。商品開発者として、味だけでなく言葉との出会いもぜひ楽しみましょう!


普段は企業様の商品開発やコンサルティング事業を行なっています。どうぞお気軽にお問い合わせください。


一緒に社会問題をおいしく解決しましょう!