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移住にまつわる散文(ビアガーデンにて)
予定より遅れて、移住した玉野のビアガーデンへ行ったときのこと。7〜8人が囲む席に知った顔が見えて、思わず駆け寄った。
「あ〜お疲れさま〜〜!」
「待ってたよ!」
「注文はね、紙に書いて先にお会計したらいいよ」
隣の席にあった椅子を移動させて席につく。ぐるりとみなさんの顔を見ると、待ち合わせていた人もそうでない人もいて、でも全員の顔と名前が一致した。これはすごいことだなと思う。
気がつけば、移住して4ヶ月が経っていた。
◇
そもそも私は、固有名詞を覚えるのが苦手なのだ。よって失礼ながら、人の名前を覚えるのも苦手だった。「これはすごいこと」と言ったのは、「こんな私でも顔と名前が一致している」と思ったから。
すごいことはもう一つ。私は大人数で食事したり飲みに行ったりが苦手なのだけれど、この場では苦手だなんて、これっぽっちも思わなかった。
7〜8人といえば、私の中では大人数。誰と誰の会話に入ればいいのか分からなくなったり、会話の入り方が分からなかったり、そういう理由で苦手意識があった。
必要以上に気を遣ってしまう性分がゆえと思っているが、その性分は不思議と玉野では発動しない。自分でも「私はここに馴染んでいるのかも」と思うほど力まずにいられるのが、未だに嬉しい謎だなぁと思っている。
◇
ビアガーデンに行った当日、移住を決めたご夫婦と出会った。
移住を決めた理由はいろいろあるそうだが、「直感、だね」と笑い合う二人に、思わず共感した。
そう。移住なんて、直感なのだ。もちろん仕事や住居などを考えると、ハードルが高いと感じる人もいると思う。ただ、言葉にできる「条件」があったところで、実際に来てみて肌でどう感じるかは直感なのだ。その土地で出会う人々が纏う空気を、どう感じるかも直感。これはもう、なんというか、言葉にしようと思ってもなかなかむずかしい何かがあるように思う。
私は書いたり、思考したりするのが好きだから、ついつい言葉にしてみたいと思うのだけれど、言葉にできない何かは未だにあるし、そういうものこそ大切だったりするのかな。と、最近はそんなことを考えるようになった。
◇
「玉野は、造船のまちだからね。外の人も中の人も、関係ないのよ」--。不思議と誰もを馴染ませてしまうここ玉野は、これまでの歴史が築き上げた、目に見えない文化があるのだと思う。
そのおかげで、少しずついろんな人が交わって、いろんなことが変わっていて、変わろうとしている。うずうずしている。そんなイメージが、今の私から見た「玉野」という場所。
きっとまだ、このまちに魅了されつづけるのだろうな。そんな予感がした夜なのでした。