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取り調べ資料25【僕らばかりが生きている】
僕は考えていた。
篠崎みゅうという人間だけでなく、親しい友人である池川堊という人物が突如として失踪することが、世間には大きな衝撃になると思った。
それがなぜかといえば僕の両親はきっと僕を捜索するし、僕の両親や周りの人間が動けば、どうしたってみゅうとの関連性は浮き彫りになっていき、みゅうの身辺についての調査も深まるのではないかと思った。
家宅捜索が行われた際、後藤さんという警察官にみゅうの家庭環境についての言及をしたことは間違いなく証言として機能するはずであるし、宮崎に逃げることができれば、捜索には多少の時間がかかるはずである。これはなぜかといえば単純な話であり、学生の身分である僕らの行方不明の捜索となれば、まず行動範囲内で捜索が始まるというのが予測できたためである。また、県を跨ぐことができれば、県警同士の協力が必要になるだろうと考え、その手続きなどが挟まれば間違いなく篠崎家(もう篠崎ではなくなるらしいが)の捜索が行われる方が早いであろうことは容易に想像がつくであろう。
みゅうと2人で家にいるのはどうしたってバレるだろうし、兎角結局県を跨ぐことができさえすれば、時間が稼げるだろうというのが見解であり、祖父母の家があるためという理由で(匿ってもらうつもり)宮崎に来たのだが、警察が別の県を捜索するとなると、おそらく一番に挙がるのは宮崎だと思うので、悪手といえば悪手かもしれないが、学生である以上何泊もする金銭的余裕はないし、なにより県さえ跨いで時間が稼げればもう僕の勝ちなのだ。
まぁ、僕が宮崎に来た理由は、自分なりの認知療法を試したかったというのが本音ではあるのだが…
盛岡市に墓参りに行くのは何年振りかわからない、もう、最後にしようとは思っている。
盛岡市、神楽坂墓地、東雲家の墓。
東雲遥が本当はどんな人だったかなんて正直余り覚えてはいない、どれだけ悲惨な過去だとしても幼少期の記憶である、覚えていなくとも無理はない。それともPTSDを発症しないように自己防衛機能が働いた結果、余り思い出せないようにしてくれているのかもしれない。乗り越えられることなんて、本当はないのかもしれないし、きっと本当は、辛いことを乗り越えたっていう自分を誰かに認めて欲しくて、それをずっと、亡くなった遥ねぇに認めてもらいたかったんじゃないかと思う。
それを今度は同じ痛みが分かる相手だと思い込んで、君に慰めてもらいたい、君に認められたい、それが本心なのかもしれない。結局何も満たされることがないんだから、笑える話だが。
あのさぁ、お兄ちゃん
ん?どうしたの?
私篠崎っていう苗字好きだったんだよね
へぇ…俺は池川って苗字、なんだか冴えなくて好きじゃないけど
なにより、私、あの男の人と同じ苗字になんてなりたくないよ。
…それは…そうだよね、ごめん、いらないこと言って
ううん!だからお兄ちゃんだけは、これからも「しの」って呼んでくれない?
なんだ、そんなこと、もちろん、しのがそれがいいならそうするよ
ありがとね、本当、その…色々
付き合わせてるのは俺だし、気にしないでよ
いや…そもそも巻き込んじゃって…
俺は、ずっとみゅうに笑っててほしい、でも俺には…
?
みゅうに初めて会った時、明るくて、優しい子だと思った、仲良く話してるうちに、君の中にもなにか欠けたものがあるのがわかって、きっとその埋まらない何かにハマることができれば、うまく仲良くなれるんじゃないかと思った。君のその優しさが、心地よくて、本当は遥ねぇと重ねて、ずっとみゅうと居れることに固執して、君を代替品の様に感じながら依存した、そうやって、とめどなく溢れ続ける嗚咽感と孤独を君に注ぎ続けた。そうしないと飲み込まれてしまいそうだったから、そうしないと、そうしないとって、結局君自身を見つめたことなんてなかった。
…私は…そんな
何かを言いかけたみゅうを遮って話を続ける。
ううん、ずっとそうやって君に甘えてた、君が辛い何かがあることをわかって、自分本位に甘えてた。
あの日、雨に濡れた君を見つけた時に、取り返しがつかないことをしてしまったと思った。取り返しがついたはずのことを俺はここまで無視し続けたんだって。
君を助けたいと思った。
でも、俺のこの気持ちは押し付けがましい偽善でしか無いことも分かっていて、それを、君に否定されることが怖くて、行動するのが遅くなってしまった、結果招いたのが家宅捜索で、君を危険に晒すだけ晒して、間違った結果を招いた。
本当は君に黙ってることがいっぱいある、それを話せない弱さを、どうか許してほしい。それでも俺、君と向き合いたいんだ。こんな感情で向き合いたく無い、君と笑いたい。
終わったら、胸を張って、友達だっていって欲しい。
そんな…そんなこと当たり前だよ…それに、本当のことを知っても、しろくんは私のこと、友達だって、言ってくれるんだね…
俺は、入学初日に気絶しても、八つ当たりで怒鳴っても、それでも根気強く話しかけてくれる、そんなみゅうを、大切だって思ったんだからね。
あのね!しろくん!!!
ーしろくん?池川堊くん??
思い返せば油断していた。
気づけば墓地に着いていた、気づけば名前で呼んでいた。気づけばあなたに会っていた。
…遥ねぇの…お父さん....
事実は小説より奇なり。