「向いてない」ことを受け入れて、新しい一歩を。
「向いてない、って気づけたのは大きな収穫だよ。」
この言葉が、僕の人生を変えてくれた。
◇◇◇
法学部で学んでいた大学2年次、僕は悩んでいた。
法律科目の成績が悪すぎるのだ。
単位がもらえるギリギリの評価がほとんどだったし、必修科目の単位を落としたこともあった。
僕は、法学部に入学する前に大学を中退している。
それゆえ、この中退を無駄にしないように学んでやるぞ、という強い意志をもって入学した。
我ながら、なかなか模範的な大学生じゃないか。
そんな自分の成績が最下層に位置しているのだから、それはもう落ち込んだ。
しっかり勉強してこれなので、なおのこと落ち込んだ。
そんな悩みを始めて打ち明けた相手は、とある教授だった。
この先生の専門は、法学ではない。
神学だ。
僕が通っていたのはミッション系の大学であったため、そういった分野を専門にする教授陣も身近な存在だったのだ。
僕は先生が開催している読書会に時折、顔を出していた。
先生は神学という分野を専門にしていることもあって、人生観や精神的な問題に詳しく、なにより哲学的な考えを持っていた。
◇◇◇
とある日の昼休み、僕は先生の研究室を訪ねた。
何度も入っている研究室のはずなのに、相談事だったからか変に緊張した。
一呼吸おいてから、研究室の扉を叩く。
「はい、どうぞ。」
いつも通りの落ち着いた声色に安堵し、緊張が解ける。
テーブルをはさんで対面に座った僕に、先生は紅茶をだしてくれた。
壁一面に並べられた書物を眺めながら紅茶を口にした後、僕は切り出した。
「僕、法学が向いてない気がしてきました。」
「あら、どうしてそう思ったの?」
僕はそこから、自分の悩みをたくさん並べたように記憶している。
法律に興味がわかないこと、中退してまで入っていた道が向いていなかったこと、周囲の友人の才能に圧倒されてしまうこと...。
そんな話をしばらくしていた気がする。
一通り聴いていた先生は、微笑しながら柔和な声色で言った。
「それはたしかに、向いてないのかもね。」
僕は、やっぱりそうか、と少し肩を落とした。
「でもね」
そして先生はこう続けた。
「向いてない、って気づけたのは大きな収穫だよ。」
目が覚めたようだった。
思えば、中退したときだってそうだったじゃないか。
あの決断をした時も、心の奥底では自分が向いていないと感じていた。
中退後の浪人生活はたしかに苦しい時期だったかもしれないが、後悔は全くなかった。
自分の進むべき道を見定めるための失敗だったのだ。
この言葉を受けてから僕は、法学に限らず様々な分野に手を出してみた。
歴史、哲学、文学、経済学...。
様々な分野の授業を受けた。
そこで、気づきがあった。
法学の成績は相変わらずだったが、歴史、文化、思想といった他学部の授業では、なんと最高評価をいくつも貰うことができたのだ。
自分の得意分野が見えてきた。
そして何より、法学分野でも変化が見られた。
「法制史」「法思想史」といった、法学+歴史といった分野に自分が強い興味を持っていることに気づいたのだ。
これは、法学「だけ」に固執していたら気づけなかったことだ。
向いてないことを克服するのも一つの道だが、脇道にそれることで新たな発見があることを学んだ。
◇◇◇
「向いてない」
薄々気づいてはいても、それを認めるのはなかなか難しい。
それを克服できなくて落ち込んだり、目をそらし続けてしまう人もいるだろう。
でも、「向いてない」ことを受け入れて、少し視野を広げてみてほしい。
そこでは、果てしなく広がる新しい世界があなたを待っている。
今、自分の居場所に疑問を抱いているなら、それはチャンスだ。
「向いてない」
その気づきがあなたの原動力となり、新しい道を切り拓いてくれるはずだ。
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