見出し画像

一万円が教えてくれたこと





一万円を拾った。


小学生の僕に訪れた、嘘みたいな本当の出来事だ。



この出来事が僕の人生を予見していようとは、この時、夢にも思わなかった...。

とりかな少年、一万円を拾う




僕は、当時通っていたスポーツクラブに急ぎ足で向かっていた。


道端に、見覚えのある紙が落ちている。


周囲には、誰もいない。













日常の風景が、紙切れ一枚で異様な空間に変貌した。














一万円。


今思えば、小学生の僕にとって信じられないくらいの大金だ。


目の前の紙きれを持って帰れば、流行りのカードゲームで最強のカードが手に入る。


一躍クラスの人気者だ。











僕の中の天使と悪魔が囁く…


.....ことはなかった!


僕は迷いなく一万円を握りしめ、交番に走った。



一万円で手に入るものを考えるより早く、自分が一番するべきと思える行動をとったのだ。










全身から誇らしげなオーラを放ちながら、交番へ走る、走る。


その時感じた耳元で轟音をたてる風は、なんとも心地よかった。









信念を貫いて得られるもの


僕は、今でも若かりし日の自分の行動を賞賛したい。


自分の信念に素直に従ったからだ。

そのおかげで、今もこうやって誇りとして僕の胸に刻まれている。










この時、自分の信念を曲げて、目先の利益を取りに行っていたらと思うとゾッとする。


きっと僕は、死ぬまで後悔するだろう。











僕の中で、何かを判断するときに自分の信念を貫けたかどうかは、かなり重要な要素だ。


損得を考えるよりも、自分の信念を優先してしまう。










この時も、


「届けた一万円は誰のものになるんだろう?」


と考えたのは、家に帰って親に報告してからだった。











信念を持ってしたことは、何物にも代えがたい財産になる。



周りからは、



「なんでそんな選択をするんだ」



と言われることも多いが、信念を持った選択で後悔したことは一度もない。






結果的にうまくいかなくても納得できるし、自分の軸がどんどん育っていく。









信念に反した僕の行く末



とはいえ、自分の信念に反した選択をしたこともある。


その時の後悔といったら、ひどいものだった。








それに耐えきれず、結果として現れたのが大学の中退だ。



僕は、浪人して再チャレンジしたい、という信念に反して入学したのだった。




入学してから退学するまでの3ヵ月、心は自責の念でいっぱいだった。












退学したらまた地獄の受験勉強、しかも今度は予備校にも通えず、受験費を稼ぎながらだ。


でも、当時の僕にとっての最優先事項は自分の信念を破り、荒んだ心を清めることだった。


悩んでいる風を装ってはいたが、結局、僕は最初からやめるつもりでいたのだろう。











その後の受験生活は、不思議なことに結構楽しかった。


現役時代は受験を「させられて」いたが、浪人時代はそうではなかった。


自分の信念で受験を「した」のだ。











思えば、この時に自分がどういう生き方をすべきか学んだ。


僕にとっては、信念に従う生き方が一番幸せなのだ。


結局、あの一万円の持ち主は現れず、半年後だか一年後だかに僕が引き取ることになったのだが、これを何に使ったかは全く覚えていない。


残ったのは、信念に従ったという誇りだけ。


どんな大金を投じても得ることのできない誇り、ただそれだけだ。






この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?