祖父の涙の真相
祖父が、泣いていたらしい。
母からこの話を聞いたときは困惑した。
うちの祖父はそんな簡単に涙を流すような人ではないのだ。
大胆で、豪快。
若いころから職人をしていて、70を超えた今も現役で仕事を続けている。
僕が幼い頃は、黒く焼けた肌、逞しい腕、派手な柄のシャツに金のネックレス、というなんともいかつい風貌だった。
ハッキリ言って、控え目で繊細、インドアな僕とは正反対のイメージだ。
そんな祖父が泣いていたというのだから、いったい何があったのか、と不安になる。
よくよく話を聞いてみると、どうやら原因は僕にあるらしい。
なにかまずいことを言ったかなと、不安が増す。
だが、その不安は杞憂に終わった。
その涙は、嬉し涙だったというのだ。
理由は、僕がフリーランスとして働く自分の現状を祖父に話したことにあった。
祖父は二十歳にもならない頃に自分で会社を設立し、仕事を始めている。
曰く、誰かの下で働いて、自分の行動や可能性を縛られるのが嫌だったそうだ。
あまりにも僕の感性と似ていて、笑ってしまった。
正反対だと思っていた僕と祖父の価値観が、実際はあまりにも酷似していたのだ。
僕もフリーランスになることを決意したとき、自分が本当に仕事をしたいと思う人のために仕事をしたい、自分の可能性を探究し続けたいという気持ちが根底にあった。
どうやら、血は争えないらしい。
その時の会話はあっさりと終わったが、どうやら祖父は、孫である僕が自分と同じような道を歩んでいるという事実がとても嬉しかったらしい。
祖父も、昔は大いに苦労したことだろう。
学校にもほとんど行かなかったそうで、仕事のことはほとんど実生活のなかで学んでいったという。
祖父はそんな逞しい人生を歩み、長年培った信頼で今も元気に仕事を続けている。
だが、そんな祖父も本来はとっくに定年を迎えている年齢だ。
ましてや、体が資本の職人。
いつまで仕事ができるかわからない。
祖父の意志を継ぎ、今度は僕が我が家を支える番だ。
フリーランスになって丸一年、わからないことだらけで、がむしゃらに駆け抜けた一年だった。
だが、祖父の歩んできた道なき道に比べれば、どんなに平坦な道だっただろうか。
僕はこれからも幾度となく苦難を経験することになるだろうが、祖父の苦労を想像すると、全てちっぽけなものに感じる。
祖父から受け継いだ不屈の心で、道なき道を切り拓いていこう。
じいちゃん、おれ、頑張るよ。
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