2023年映画感想No.71:ミステリと言う勿れ ※ネタバレあり
主人公整くんの巻き込まれ力
TOHOシネマズ川崎にて鑑賞。
原作やテレビシリーズは未見だったのだけど劇場作品公開に先駆けてテレビ放送されたドラマ1話の再編集版+新エピソードのテレビ放送を予習として見てから臨んだ。
タイトルの通り、遺産相続ものという既存のミステリージャンルに対するお約束外し的な展開が序盤にあって、そこから全然予想できない方向に話が転がっていくのが面白かった。
テレビシリーズにちょこっとしか触れていない僕でも菅田将暉演じる主人公の整くんが生粋の巻き込まれ型主人公であることは知っていたのだけど、本作でもあっという間に関係ない遺産相続のゴタゴタに巻き込まれるし、その超不自然な状況に整くん含めて全員さらっと順応してしまうのがコミカルで面白い。整くん、遺産相続の条件説明の場で冷や冷やすることやヒントになりそうな独り言を結構大きい声で呟きまくるのだけど誰も相手にしなさすぎててすごい変な世界だなと思った。整くんが蔵の名前を聞いて「足りない」って呟くのが明らかに伏線なのだけど、原菜乃華演じる汐路が気付いてるくせに全然言及してくれなくてモヤモヤした。色々とミステリーマナーに則りすぎだと思う。
負の継承からの解放というテーマ
ドラマの第一話でも言及されていた「親から子供に継承されるもの」という部分が本作でも根幹に関わる要素になっていて、まさに狩集家という血縁そのものが遺産相続争いをする4人を抑圧し、縛り付ける呪いであるかのような物語だった。
狩集家の人々はこの場所に生まれたことで選択の余地なく憎しみ合いや古い価値観の抑圧、大切な人の喪失を受け入れさせられてきた存在であり、整くんの「身も蓋もなく明らかにする」という資質がそういうものを認識させ、否定し、登場人物たちを解放していく。
本筋になる謎解き以外にも抑圧や痛みの継承を絶って次の世代が幸せに暮らせるように、というアップデートが随所に描かれる。本筋の真相もまさに一族の後ろ暗い過去についての話であり、そのおぞましい連鎖を断ち切る戦いとして汐路たちの謎解きのゴールが設定されているのは物語の着地として必然性を感じた。
謎解きとして弱さの残る部分
中盤以降の展開は汐路の父親の死についての話と狩集家の真実についての話それぞれにやや謎解き的な弱さを感じる部分があった。
まず父親の死については決定的な証拠と犯人を幼い汐路が目撃しているという一発で全解決するレベルの情報が最後の最後に後出しされる構成になっていて、ミステリとして破綻していると思う。重要なUSBがあることがわかり、その隠し場所にたどり着くまでのロジックにもやや無理がある。死んだ父親がUSBの蓋だけ持っていたことも、隠し場所のヒントが幼少期の落書きの色だったというのも伏線として不自然に感じた。あと睡眠薬効くのが遅い。
そもそも一度は事故死だと考えた整くんが一族の癖毛の人が早死にしていることを知って汐路の父親が事故死ではないということに結びつけるのが論理として結構飛躍してる気がした。狩集家の中でも色白で癖毛の人だけが早くに亡くなっているという情報を得て「殺されたかもしれません!」と言い始めるのだけど、事故だった可能性と比較しても根拠としては弱いように思うのでもう少し慎重な表現にした方が演出のバランス的には良かったんじゃないかと思う。
カタルシスの無い謎解きの決着とその先を描くラスト
狩集家に関しては結構ぶっ飛んだ真相があるのだけど、その動機に関わる部分が結構早くに明かされてしまうのが構成的に勿体無いと思った。「狩集家の過去の秘密を守るために今も誰かが一族の癖毛を殺している」って現実に起きていることの根拠にするにはかなり弱い論理だと思うので、終始それをベースに推理が進んでいくのが探偵側の思考としてかなり飛躍しているように見えた。
要は現在までその因習が残っていたとして誰が何のためにそんなことをしているのかに説明がつかないという部分がミステリーの真相としては破綻しているのだけど、まさにその部分に犯人の独りよがりな狂気があるという気持ち悪さが残る結論になっているのは良かった。犯人とのやり取りでは意図的にカタルシスを廃しているのだと思うし、取り返しのつかない出来事が起きたその先についてしっかりと描こうとするラストになっている。
実は真実を知っていた父親たちの行動については彼らは彼らで周りくどいやり方をしていたことで話がややこしくなっている部分があって、そこまでわかってるならもっと明快なやり方があったんじゃないかと思ってしまった。全部わかった時点で結論を先延ばしにする理由がよくわからなくて、そのせいで結果的に今回の事件が起きてしまったのだから本人たちの目的からするとかなり本意じゃない展開になってしまったなとは思う。