2023年映画ベスト10
2023年映画ベスト10
01 The Son/息子
02 TAR/ター
03 BLUE GIANT
04 ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!
05 別れる決心
06 エンパイア・オブ・ライト
07 aftersun/アフターサン
08 AIR/エア
09 ファースト・カウ
10 カード・カウンター
The Son/息子
エゴイスティックな父権の抑圧によって深刻化していく青年の苦しみを「理解できない側の視点」で描く語り口の鋭さ。欠落感を抱えて生きることがいかに苦しいのかを見つめる残酷な客観。
美しい思い出に見る儚い希望と、その逆光に生き続けることの呪い。
TAR/ター
アイデンティティのコントロールを失っていく権力者の凋落をスリリングに描き出す映画的演出の見事な積み重ね。「終わり」に始まり、「始まり」に終わる物語に見る人間の愚かさと気高さ。
BLUE GIANT
ジャズが好きという気持ちは絶対的に正しい、という主人公がいるからこそ相対的な悩みを抱えるキャラクターたちの音楽が肯定されていく。「その人にとってのジャズ」がバンドとしての演奏に集約されるクライマックスで目玉が落ちるんじゃないかというほど泣いてしまった。
ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!
ティーンエイジャーらしく純粋で危ういタートルズたちが自分自身のまま他者と関わることを諦めないという選択をすることを「正しさ」として提示する素晴らしさ。
クライマックスのモブの描き分けが「みんな違って、だからこそ強い」という多様な社会の美しさをアニメ的に表現しているようで展開の感動をグッと高めているように感じた。
別れる決心
フィルムノワールというジャンルを批評的再解釈する内容の現代性と最新デバイスを最大限に活用する設定的な現代性があり、ガワと中身が更新されたジャンルにおける見事な最新版。
商業映画的な脚本の強さと一筋縄ではいかないキレキレの撮影。真実の持つ多面性こそが官能的でありサスペンスでもある。
エンパイア・オブ・ライト
自由で多様な芸術の居場所である映画館が舞台であることが、尊厳を傷つけられながら生きる者同士が苦しい現実の外側にある可能性としてのお互いの存在に出会う展開に美しい必然をもたらしている。「映画を観る」ということは差別や暴力を防ぐことはできないかもしれないけれど、だからこそ個人的で切実な救いなのだと思う。
aftersun/アフターサン
「思い返す」という眼差しによって切り取られる温かな記憶と、その後ろ側に横たわる後悔と痛みの追体験。何気なく流れる全ての瞬間に今だから理解できる父親の姿がレイヤードされている。
映画は「いつか来る終わり」に向かっていく時間表現だからこそ全てが切なく、かけがえがない。
AIR/エア
結論を知っている物語だからこそ際立つ「それをどう描くか」という映画としての見事さ。ハイライト集には映らない物語の続きを描き出せるのが映画なのだと見せつけるような熱いクライマックスに奮えた。
一方で、狂った情熱を偉業として全肯定せず「あくまで結果論」という冷静な警告を忘れないバランスも見事。
ファースト・カウ
「牧歌的なクライムサスペンス」というパラドクスのようなジャンルを成立させるライカートの人間を見つめる眼差し。人を信じる気持ちを試されるようなバディの関係性と、だからこそ尊い利他的選択。人を孤独から救い出すのは成功ではなく友情なのだ。
カード・カウンター
淡々と進む異様な語り口が醸し出す主人公の狂気と罪。抑制されたタッチで描かれる機械的な日常に禍々しい緊張感があり、次の瞬間には取り返しのつかないことが起きるのではないかという怖さがどの場面にも漂っている。
オスカー・アイザックの圧倒的な存在感。切れ味抜群のフィルムノワール。