分析ツールの操作ではなく考えるパートに時間をかける(DX推進のポイント)
本連載では、「デジタル思考とデータドリブン・マーケティング」というテーマに焦点を当て、アナログとデジタルの判断の違いやデータの特性や活用上の課題、DXを推進するために必要な考え方やステップなど、ますます求められるファクトベースの変革について考えてみたいと思います。
デジタルな意思決定やデジタル思考において、事実に基づく意思決定やオプションの選択のために、データを確認し、読み解き、考え、実行するというアクションが求められます。
また、データ起点で1周のサイクルを回し、成果や目標との差異を特定し、考えられる解決のオプションについて、その根拠を説明する過程において、定量的なデータや読み解いた結果は、他の部署や部門と自部署をつなぐ共通言語となり、部門を横断する取組みへ移行する際の、のりしろとして作用する効果が期待できます。
今回は、データ活用の重要性や、データ利活用の有用性を理解し、DXを進めるための準備を始めた企業や組織に生じる誤解によって陥りがちな状態と本来採るべきアプローチについて紹介していきます。
1.陥りがちな状態(順番が前後する)
DX推進を志す企業、組織において、明確な目標やゴール、課題解決のテーマ設定の手前側で「データ活用環境づくり」や「BIツールの導入、操作方法の習得」等、ハードの整備を先行させるという悪手を取るケースが見受けられます。
データ活用環境づくりとして、自社保有データ(単一や単独)だけでは、市場全体の把握やお客さまの動向、トレンドの測定が難しため、マーケティングリサーチ会社が販売するPOSデータやアンケートパネルのデータ、気象データや食卓データ等の外部データを契約してしまったものの、一部限定的な組織での活用に留まり、費用は掛かるが、有効活用できず、結果、宝の持ち腐れに終わる、という悪手が存在します。
また、BIツールや予測分析のためのシステム導入を先行してしまう、という事例も散見されます。Tableau等のBIツールのアカウントを全社員分契約し、保有データの見方や分析メニューの操作について、大掛かりな研修を行ったものの、日々、アクセスする社員は少ない、といったケースや、IBMのSPSS Modelerのような予測分析プラットフォームを導入したものの、自社のデータアナリストからすると高機能すぎて、使いこなすことに至らず、結果として、単に高価なだけのデータ抽出専用ツールになってしまった、という事例も聞こえてきます。
データ活用のためのハード(環境やシステム)の整備を先行し、箱だけを用意したが、中身のソフト(スキルを備えた人)が追い付いていないという状態は、身の丈を超える高価な車を購入し、操作方法は教えられたため、その車を走らせることはできるが、やっていることは単なるドライブに過ぎず、ガソリン(費用)ばかり食うが、いつまでも目的地に到着しないという壮大な無駄に映ります。
ハードの用意よりも先に、ソフトの育成が必要だと考えられる理由は以下の通りです。
(1)眺めているだけでは有効な示唆は出てこない
用意されたデータを読み解くために、データの癖や特徴の理解等、一定以上のデータリテラシーが必要。
(2)外部データは高い
外部のデータは、ソース別になっていることが多く(例えば、Twitterのつぶやきの集計と、Instagramのハッシュタグのトレンドは、別法人が提供する別のデータ)1つ1つのデータが高価で、複数のデータを仕入れるだけで、大きな負担になる。
(3)アクティベーションコストが嵩む
複数のデータを使いこなそうとすると、それぞれ、構造が異なるデータを繋ぎ合わせ、掛け合わせて使うための物差しとなるマスタを整備する必要があります。このデータアクティベーションに時間、手間、工数がかかる他、いったん整備を始めてしまうと、容易に辞められず、利用用途がなくなるまで、社内で継続して整備し続ける必要がある(サンクコスト化)
(4)データ分析自体が主語化する
データ分析は手段、またはある目的を達成するために用いるツールです。本来は、解きたい課題が存在し、課題解決のための仮説を思考するプロセスが先にあって、答え合わせや裏どりのためにデータがあるべきですが、高価なデータを取扱い、多機能なツールを操作する専門人材を配置したことで、当該チームやメンバーにとって、データ分析事が、業務の目的や主語になってしまうケースがあります。
2.順番が前後することを防ぐ(留意点)
ハードとソフトを用意する手順として、前後が入れ替わってしまわないようにするため、環境整備に着手する前に、以下の点に留意する必要があります。
(1)データ仕入は目的起点
データ活用の環境づくりは以下の順番で検討する必要があります。
解きたい課題を明確にする
データ整備の要件と必要なコストを算定する
必要十分な量と種類のデータを仕入れる
「複数のデータを取り揃える必要がある」、「データは多ければ多いほうが良いはず」というデータ原理主義に陥り、データ取得を起点としてしまうと、DX推進の成功確率は逓減します。あくまでも、解決したい課題起点で、外部からのデータ調達要否を評価するべきだと考えられます。
(2) データ抽出のオペレーターを育成したいわけではない
DXの推進に向けて、社員が備えるべきスキルは、BIツールを駆使して、複雑な分析メニューを動かせることではありません。課題の背景を十分理解した上で、データ起点でビジネス課題を整理し、解決する力を育む必要があります。
高価なBIや予測変化のシステムを、使いこなすオペレーターの輩出ではなく、デジタル思考でのビジネス力、なかでも「事実に基づき思考する力」を養うということに主眼を置き、、ハード先行ではなく、ソフトの整備に目を向ける必要があります。
3.ソフトを先行させるアプローチ
DX推進に着手する企業や組織のあるべきスタイルとして、ハードの環境づくりを後回しにし、ファクトベースで考える事や1周回った企画の推進(事例作り)を優先して先行させる、ソフトから入っていくアプローチをお勧めしたいと思います。
デジタル思考でビジネス力や課題解決力を引き上げるため、事実に基づき思考し、実行する際の基本プロセスは以下の通り分解できます。
データの読み解き
データに基づく思考
プランの実行
このプロセスをのなかで、DX推進に着手したての初期フェーズでは、社員に基礎的なデータリテラシーが備わっていないため、この部分の習得や勉強に時間を割きがちですが、実はこのパートに注力する必要はないと考えています。
その代わりに、データの読み解きや示唆出しに長けた外部のアドバイザーに就いてもらい、「データ活用ガイド役」として、社員に伴走させることで、習熟にかかる時間(付加価値を生んでいないアイドルタイム)を削ることができます。
外部の専門家に依頼する協力事項は以下の通りです。
検討ステップごとの思考に必要なファクトデータの抽出と提供
用途目的に応じたデータの読み方のガイド
議論や検討用のフレームの提示
議論のファシリテート(企画進行サポート)
外部専門家に「データ活用ガイド役」を依頼することで、メンバーは課題解決や企画検討、ものづくり等、本来業務に専念することができ、なかでも、「思考のプロセス」に十分な時間をかけることができるようになります。
このように、DX推進のソフトパートで重要なことは、志や想いをもったメンバーでないとできない本来の作業である、思考によって付加価値をつける工程に専念することだと考えられます。
データの入手や整備、活用可能な状態を整えるデータのアクティベーション、データの抽出、可視化のためのデータエンジニアリングに至る一連の工程は、データを読解し、思考する手前側に存在する前処理や事前準備でしかありません。
ソフトが整備されない限り付加価値を生むことはないハードの環境づくりを先行させるのではなく、データ活用ガイド役から提供されるデータの中から読み取れるファクトを根拠とする事例開発や課題解決の実行プランの検討といった考えるプロセスに、社員の限られた時間を当てる、というアプローチこそ、小さくてもデータ起点で1周を回した事例作りを早める等、DX推進の成功に近づくアプローチではないかと考えています
4.まとめ
次回は、動き始めたDX推進の取組みを定着させるとともに、組織横断のアクションにつなげていくためのポイントをご紹介したいと思います。
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