データがあっても解決策が見えてきたり自動的に解決するものでもない(データの活用課題)
こんにちは。マーケティングの視点で読解力を高めるためのノートです。
本連載では、「デジタル思考とデータドリブン・マーケティング」というテーマに焦点を当て、アナログとデジタルの判断の違いやデータの特性や活用上の課題、DXを推進するために必要な考え方やステップなど、ますます求められるファクトベースの変革について考えています。
データマーケティング、データドリブンのアクション、デジタル思考などのDX(デジタルトランスフォーメーション)に関連するキーワードとともに、データ活用のアプローチについて語られる際、時折、「データがあれば何でも解決できる」という誤解が生じることがあります。そして、データの量を追いかけることや、どうやって多くのデータを集めるかというテーマに焦点が絞られがちです。
確かに、データは今起きている事象やコンディションを捉えることや、変化の兆しをつかむこと、さらには過去の傾向から将来を予測するのに役立ちます。しかし、データ自体は単なる材料や素材に過ぎず、データが存在するだけでは、何かの問題が自動的に解決するわけではありません。また、データをただ眺めているだけで解決策が浮かんでくるような「万能」ツールでもありません。
この点を踏まえて、今回はデータを使える状態にするための前準備や工程を経て、利活用できる状態なった後の、データ活用課題について考えてみたいと思います。
1.数字の羅列を見ても答えはわからない
自社の取り扱う事業やサービスの状況を示すKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の数値を日々見ている方も多いと思いますが、このようなスナップショットのデータや数字は過去の結果を表しているだけであり、未来のアクションに直接つながるヒントを提供するわけではありません。
たとえば、カテゴリ別の商品の売上や販売数の増減を見て、次にどんなアクションを取るべきかを考える場合、単に材料や素材のデータを集めるだけでは意味がありません。
具体的な例として、自社の商品販売に関して今期末のあるべき姿を想定し、設定された目標数字がある場合、その目標を達成するための要素を因数分解して考える必要があります(たとえば、新規購買者の推移、リピート購入者の割合、購入頻度、他社ブランドとの間の流出状況など)。
その上で、問題がどこにあるのか仮説を立て、その仮説を確かめるために定量的なデータを用いて検証します。このような仮説を立て、裏取りとしての調査・分析の工程が存在しないと、課題解決のアクション考案に至らないということがわかります。
2.目的にあったメニューがない限り宝の持ち腐れ
近年、企業ではBIツールの導入が進み、蓄積されたデータから必要な情報を集約・分析し、経営や業務に活用しています。さらに、社外のデータホルダが整備したデータの有償開示用ツールとしても、BIツールが利用され、営業活動やマーケティングに関する分析メニューが提供されています。
BIツールには、あらかじめ多彩なデータ可視化・分析機能が備わっているため、保有データが様々な切り口で分かりやすく表示されることが特徴です。しかし、BIツールの導入だけで社内のデータリテラシー向上が自動的に進むわけではありません。
提供される機能や分析メニューの多寡はさほど重要ではなく、社員が立てた仮説を裏付けるための適切な分析メニューが存在するかが重要です。BIツールが、どの企業にも共通で提供される標準的なパッケージの場合、社員の見たい見方に適したメニューが存在しなかったり、不足していることもあります。
BIツールの使いこなしには慣れが必要であり、社員が欲しい情報を素早く確認できるかが問題となります。使いたい情報を手早く引き出すためには、事前情報の登録や分析時の設定などが必要になることがありますが、それが煩雑であれば効果が薄れてしまいます。
BIツールは一般的に多彩な機能を持ち、導入費用も嵩むことがあるため、社員の見たい情報を手軽に頻繁に利用できなければ、有効活用されず、宝の持ち腐れになる可能性があります。そのため、自社の導入目的や社員の利用シーンに合致しているか、日常業務でスムーズに使えるかを慎重に点検・評価することが重要です。
3.読み解きや意味解釈のリテラシー
BIツールは、企業が蓄積しているデータを経営や業務に活用する際に、データを素早く見やすくタイムリーに可視化してくれる便利なツールです。ただし、データが示す事象の意味や読み解きの方法(メソッド)については教えてくれません。
例えば、BIツール上で業種単位の業績別販売動向を22年11月と22年12月で比較した際に「グラフ上で好調」と表示された場合、直近トレンドとして、この業種は調子が良いと解釈されます。
しかし、11月と12月は営業日が異なるため、通常、11月から12月にかけてはトレンドが右肩あがりになりがちです。一方、21年12月と22年12月を前年同月比で比較すると、22年の業績は前年を下回っていたという結果になることもあります。
ここで、22年12月の業種単位の業績は「調子良さそう」と前提に考えるのか、それとも前年からみて「調子が戻っていない」と解釈するのかによって、社員のアクションや施策の強度が変わってくる可能性があることがわかります。
BIツールがデータ解釈に関する基本的な知識やデータの癖・特徴をレクチャーしてくれることはありません。そのため、デジタル思考でファクトを読み解くリテラシーを身に着けるには、BIツールの導入とは別に、データの意味解釈と読み解きができるスキルを持つ先生役やコーチ役が社内または外部に必要です。彼らの指導やサポートによって、少しずつ間違いのないデータ活用スキルを身に着けていく、というアプローチが求められます。
4.目的と手段が逆転しがち
複数のデータを取扱い、データを取り扱えるようにするための前準備を経て、社員が見たい見方でデータを抽出するためのBIツールや分析メニューを用意する等、データ起点での業務環境を整える、という一連のプロセスや、ここにかかる期間、環境整備のためにかかるコストや対応する組織や人材を考えると、ひとつの企業にとって、実施、実行の判断ひとつとっても簡単ではなく、重要な意思決定の一つだと言えます。
これらの環境整備や業務スタイルの導入は、データドリブンな経営を実現し、事業活動全体をデジタルで変革していくことを目的とした取り組みです。
しかし、もう一段視座を引き上げると、この環境整備や業務スタイルの導入自体が、本来の目的である顧客価値の提供を実現するための手段であることが分かります。つまり、本来の目的はDXを通じて顧客に価値を提供することであり、データ起点の判断をサポートする環境整備がその手段となるのです。
そして、社員自身も自身の業務目的を達成する、という目的のもとで、KPIを構成する要素を分解し、問題発生の箇所の仮説を立て、原因を特定し、当該問題の解決のためのアクションを考案、実行した上で、その成果効果を検証し、次なる取組みにつなげていく、というサイクルを回す必要があります。
その際、アナログな意思決定や判断に頼らず、デジタル思考で物事を動かす、その手段としてデータを見る、という姿勢が求められます。ここでは、データを見るという作業自体が目的化しやすいことに加え、次第にそこに固執してしまう傾向があるため、常に手段と目的が逆転しないように留意することが重要です。
5.データ活用課題の解決の方向性
複数のデータを調達し、アクティベートしたデータを社内の関係部署へ提供しただけでは、問題は解決しません。「データがあれば、解決策が見えてきたり、自動的に解決するわけではない」ため、実際には、顧客価値の提供のため、事実に基づき判断する組織へ変わろうとすると、データ活用上の諸問題をクリアする必要があります。
社内に蓄積された多くのデータを集約し、共有・分析するためのBIツールを導入することで、データ活用の課題が解決したと考える法人もありますが、BIツールの操作方法を覚えて、データを眺めるだけで有益な示唆を得ることは難しいのです。
データ活用課題の解決のためには「明確な目的を持ち、仮説を立てる」という目的に基づいた使い方が重要です。トライ&エラーを繰り返しながら、小さくても確かな成功体験(デジタル思考で選択したアクションが成果を導いた)を積み重ねることが大切です。
また、周囲のメンバーや部署同士で事例を交換したりアドバイスを共有するなど、相互に学び合う関係づくりが重要になります。こうすることで、組織固有のノウハウや効果的な方法が確立され、データを起点に考えることが当たり前の文化やスタイルを根付かせることが可能になります。
次回は、デジタル思考の社員を増やし、データ起点で業務プロセスを変革するために最も大きな障壁となる組織課題について考えてみたいと思います。
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