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『瓶詰の地獄』『人の顔』『死後の恋』読了

Twitterで近親相姦が話題になっていた時に見かけた、
「近親相姦が好きなら瓶詰地獄を読め(概要)」
というツイート。
たまたま紀伊國屋書店に行った時に思い出したので買ってみた。

角川文庫の「瓶詰の地獄」は、瓶詰の地獄を含めた計七篇の短編小説が収録されている。
今回は前半に収録されていた「瓶詰の地獄」「人の顔」「死後の恋」の三作品についての感想を雑に記そうと思う。


まず筆者である夢野久作に関してだが、名前をギリギリ聞いたことある程度だった(とある作品に出てくるキャラの名前の元ネタとかそういうので知っている程度)。
もちろん作風も知らぬ状態で読み始めた。
まだ三作品しか触れていないが、現状「自然の美しさを利用し、“鬱くしい”を描写するのが上手い人だな」という感想を抱いている。


一作品目は、今回の目的である「瓶詰の地獄」。
実はTwitterで最初から最後までのあらすじを見てしまっていたため、流れは把握していた。
ただやはり、あらすじからは得られない筆者の表現力というものを感じ取れたため、原作を読むことができて良かったと思う。
特に印象に残った箇所は、

荒浪に取り巻かれた紫色の大磐の上に、夕日を受けて血のように輝いている処女の背中の神々しさ......。
角川文庫 17ページ

という一文である。
理由としては、「紫色の大磐」「夕日」「血のように」の3つが織りなす色のコントラストにあると考える。
これは私の好みの話であり、もしかしたら万人もそうなのかもしれないが、色を想像しやすい表現の文章を気にいることが多い。
紫と、茜と、紅。その色彩の中央で美しい身体をもつ少女が祈りを捧げている...という構図が、私にはまざまざと脳裏に浮かび上がったのだ。
しかし、このシーンは美しさとは裏腹に、少女アヤ子がとある“決心”をしている場面である。
いや......むしろそのことも踏まえて、なおのこと“鬱くしい”と感じる。
Twitterのおすすめに間違いはない。
出会えて良かった作品だ。


二作品目は「人の顔」。
買った当初、短編集だと気づいていなかったため、この「人の顔」以降は全て予備知識なしの初見感想である。
この作品は、読み終えた時「......う〜ん?」という感想を抱いた。
まあ不倫だなあ、いうことは理解できたが、全体的に謎に腑に落ちない。後ほど考察などを読み、再読すべき作品であると思う。
この作品で印象に残った文章は、

お眼々のところの星が一番よく光っててよ
角川文庫 26ページ

である。星が綺麗な空であることが一発でわかる。
この文章は前半、主人公チエ子の義母に向けての台詞であり、後半に義父に向けて似たような台詞が登場する。作中ではこの2シーンは対になるよう表現されている。
綺麗な星空と無垢な子供......のせいでそれぞれ絶望に落とされる大人たち......。
私が欲しているものとは毛色が少し異なるが、これもまた一種の「鬱くしい」なのだと思う。


三作品目、「死後の恋」。
これには衝撃を受けた。
瓶詰の地獄は流れを知っていた。
人の顔はなんとも腑に落ちなかった。
このまっさらな状態で読んだ「死後の恋」。
「鬱くしい」の集大成であった。
まずは印象に残った文章だが、いくつかある。
まず一つ目は、

......その森のまん丸く重なり合った枝々の茂みが、草原の向うの青い青い空の下で、真夏の日光をキラキラと反射しているのが、何の事はない名画でも見るように美しく見えました。
角川文庫 54ページ
......一面にピカピカと光る青空の下で、緑色にまん丸く輝く森林......
角川文庫 56ページ

この2つの文章だ。どちらも同じものを同じように表現している。空はどこまでも真っ青で、森の葉が眩く輝いていることがわかる。
だがこの2つの文章は、主人公が置かれている状況が180度違う。わかりやすく例えてしまうならば「天国と地獄」でよいと思う(少し語弊があるが)。
状況は一瞬にして真逆と化してしまっているのに、それを皮肉るかのような何も変わらぬ美しい蒼穹。全てが「ゆめまぼろしなのでは?」と思ってしまうほど......思いたくなってしまうほどの蒼翠。
美しさゆえに浮き彫りになる絶望感に痺れた。

印象に残った文章二つ目は、

私のいる凹地を取り巻いた巨大な樹の幹に、
角川文庫 62ページ

正確には、この文章というよりも、この文章の前後全てである。何が印象に残ったのかは、読めばすぐにわかると思う。なかなかインパクトのあるシーンだ。
私がこの作品を読んでいて、一番はっきり想像出来たシーンはここであった。自分が主人公になってしまったかのような衝撃があった。
火が燃え広がる過程も、真実が見えた時の衝撃も、全てが手に取るように感じられた気がする。
夢に出そうだ。最悪だ。
そして明かされる事実と、グロと美の対照。
なかなか勧めにくい作品ではあるが、ぜひいろんな人に読んで欲しいと思った。そして私と語ってくれないか。
死と、美と、死後の恋について。
ハラショ......。


以上、鬱くしい三作品の雑感想でした。
夢野久作、大変良い!
残り四作品も楽しみ!読むぞ読むぞ!

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