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1日と言う単位での死

僕らの体内では毎日1.2兆個もの細胞が細胞分裂によって新たに生まれている。その分死んでいく細胞もいるから、極端に言えば1日という単位で僕らは死んで新たに少しずつ生まれ変わっているとも言える。

もちろん全てが新しく入れ替わるわけではないんだけれど、それでも昨日とは少し違う僕らとして今を生きている事になる。毎日少しずつ死んで、少しずつ新しく生まれる。その1日という区切りとしての死はやっぱり眠りにつく時に訪れるんだと思う。

いつからかは定かじゃないが彼女と過ごす様になって1人で眠れなくなってしまった。昔を振り返ると僕は誰かと寝たり横になったりするのが極端に嫌いで修学旅行の時なんかは隅っこの方に布団を敷いて出来るだけ壁側にくっついて寝ていた程だ。とにかく自分の近くに何か人の気配を感じる事がストレスでしかなかった。

それがどうだろう?今じゃ彼女が隣に居なきゃ眠れない。もっと言えば腕を回して抱きしめて居ないと落ち着かない。だから彼女と離れて過ごす夜なんかは布団の中に小さく蹲って必死で彼女との楽しかった事を夢想する。なんだか子供じみていて恥ずかしくもあるが事実だからしょうがない。

おいで

彼女の横に寝転がって頭の方に腕を持ってく。"おいで"と言うと大概"ここにいるじゃん!"と怒られるのだが、頭をつんつんすると首を上げてこちらに来てくれる。いつも僕が彼女のわがままを聞いている様に見えるかも知れないが、なんだかんだで僕のわがままを彼女だって許してくれている。だからなのか僕は生まれて初めて"おいで"と言われた時に素直に彼女の胸へ飛び込めた。腕を広げて少しニヒルな表情を浮かべた彼女が僕を呼ぶ。誰かに縋って甘えるなんて大人のする事じゃ無いとずっと思っていた筈なのに、僕はその両腕と表情に抗えない。

煩わしい人の気配や、接触するその温度や、息遣い、匂いそのどれもが苦手で疎ましかった過去の僕は、いとも簡単に彼女の手によって生まれ変わりつつある。誰かの所為で、又は誰かの為に細胞ならず心まで変わっていくということに特別なモノを感じる。

君を形作るもの

今朝ネイルをオフしたあの形の良い爪も、小さくて柔らかな可愛い唇も、握ると安心するあの手のひらも、少しキツイ目つきをするあの目も、白くて血管がすこし透ける程の肌もあの形を成しているものは全て細胞であって、それらは毎日少しずつ少しずつ死んで、新たに生まれ変わる。毎分毎秒変わっていくのにそれでもほぼ同じ形を成して生まれ変わる。だからこそなのかも知れないが僕らは時としてその変化を見過ごしてしまう。当然の事なんだけれどそれは少し悔しい事でもある。

でも確実に変化を見て取れるものもある。彼女の為に伸ばしている僕の髪の毛は着実に伸びているし、彼女の為に食べなかった食べ物は確実に僕の体重を減らした。(食べ物に関しては食べろと叱られた)

彼女は目尻の方に赤いシャドウを置くのがよく似合う。だいぶ前に出かける前リクエストしたのを彼女は時々僕に何も言わずに実行する。何だかそれが僕はくすぐったい様な嬉しい様な、でも確実に愛しい事だと思う。

相手の為にという変化は実は相手の好む姿になる事によって、それを成し遂げた自分を愛す為なのかも知れないが、そんな些末なことはどうでもいい。その行為が、というよりその変化しようと言う思考そのものが愛おしいものだから。

だから僕は朝日を嫌う

矛盾しているが、僕は朝が来てしまって目覚めた時に昨日とは違う僕らになっている事が少し悲しくもあるのだ。昨日の彼女にはもう2度と会うことが出来ないし、昨日起こった出来事はもう一度同じ経験を同じ様に繰り返したとしても、全く同じ体験としては感じられないから。

朝日にぼんやり照らされたまだぐっすりと眠る彼女の顔を眺めながら僕は昨日の彼女にきちんとさよならを言って、今日の彼女を精一杯愛す事を宣言する。寝ているのをこれ見よがしに絡まった寝癖を少し解いてほっぺにキスをしてまた目を閉じる。抱きしめたその温度も柔らかさも確かに昨日の彼女と酷似しているが、これはもうすぐ今日の彼女になる。

そうやって何千回何万回と知っている初めましてを繰り返して僕らは毎日を過ごしている。きっと今日も"ねむい"と言いながらなんだかんだできちんと仕事をこなすんだろうな。僕は急にできた休日の使い道を見失って記事を書こうとしているんだけれど。その後に絵を描くのも良いかも知れない。

今日の彼女が目を覚まして今日の僕の腕を生まれて初めて引き寄せた。僕は初めましての挨拶がわりに優しく囁く。

"おはよ"


今日はここまで!
またいつか与太話を。
んじゃまた!!

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