エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン『ミツバチと私』スペイン、ルチアとその家族について
2023年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。Estíbaliz Urresola長編一作目。セリーヌ・シアマ『トムボーイ』やエマヌエーレ・クリアレーゼ『無限の広がり』、セバスチャン・リフシッツ『リトル・ガール』に連なる、ジェンダーアイデンティティに疑問を持つ少女ルシアの物語。ルシアは夏休みの間、家族で母方の実家に行くことになった。新居を探すという父親は行かないことになり、彼のことが嫌いなルシアは喜ぶが、彼と遊ぼうと思っていた兄エネコは機嫌が悪い。田舎の村で、ルシアは少女と思われてそのように接されているが、家族は"she"をいちいち"he"と訂正し、彼女のことを出生名であるアイトルと呼び続ける。そんな中で、男とはなにか、女とはなにかという疑問を家族に投げかけ、ときには自らの目で観察する。本作品は短いエピソードが大きな流れに沿って断片的に並べられており、そのドキュメンタリー的なスタイルと抑え気味な感情のドラマがカルラ・シモンと比べられ(た上で絶賛され)ることが多い。そして、この映画の特筆して言及すべき点のなさもカルラ・シモンの作品と共通しているように思う。上記に挙げた作品だと本作品はトランスの主人公とその悩める母親との関係という意味で『無限の広がり』に近いと思うが、同作における"母親"の存在がある種のデフォルメを経て主人公のアンビバレントな思考の象徴のようにもなっていたのに対し、本作品における母親は創造性の行き詰まりを感じる芸術家という"リアルさ"由来の設定に留めているわけだが、前者の方が人間的に見えてしまうのはなぜだろうか?ペネロペ・クルスが上手すぎるだけ?主人公の描写についても、個人差があると言われてしまえばそれまでだが、上記三作の方が優れていたように思う。プールの女性更衣室に入ろうとするシーンや、ドレスを着たがるシーン、ラストの呼びかけ等々、其々それ自体は感動的で好きなシーンではあるものの、あまり好きになれなかった。特に呼び方の部分は、語りきれなかった問題たちが全てその話に集約されてしまっているようでモヤモヤする。期待していたので非常に残念。
・作品データ
原題:20.000 especies de abejas
上映時間:129分
監督:Estíbaliz Urresola
製作:2023年(スペイン)
・評価:50点
・ベルリン映画祭2023 その他の作品
★コンペティション部門選出作品
1 . エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン『20,000 Species of Bees』スペイン、ルチアとその家族について
2 . クリスティアン・ペッツォルト『Afire』ドイツ、不機嫌な小説家を救えるのは愛!
3 . リウ・ジエン『アートカレッジ1994』中国、芸術と未来に惑う青年たちの肖像
5 . マット・ジョンソン『BlackBerry』カナダ、BlackBerry帝国の栄枯盛衰物語
6 . Giacomo Abbruzzese『Disco Boy』正面から"美しき仕事"をパクってみた
8 . アイヴァン・セン『Limbo』オーストラリア、未解決事件によって時間の止まった人々
10 . アンゲラ・シャーネレク『ミュージック』人間に漸近する神話のイデア
12 . セリーヌ・ソン『Past Lives』輪廻転生の恋と現世の恋
17 . 新海誠『すずめの戸締まり』同列に並ぶ被災地と遊園地
14 . チャン・リュル『白塔の光』中国、心の中の"影なき塔"
19 . リラ・アヴィレス『Tótem』メキシコ、日常を演じようとする家族の悲しみ
★エンカウンターズ部門選出作品
1 . ウー・ラン『雪雲』中国、"不在"を抱えた都市への鎮魂歌
2 . ダスティン・ガイ・デファ『The Adults』大人になった三人の子供たち
7 . Bas Devos『Here』ベルギー、世界と出会い直す魔法
9 . ホン・サンス『in water』ほぼ全編ピンボケ映画
12 . ポール・B・プレシアド『Orlando, My Political Biography』身体は政治的虚構だ
13 . ロイス・パティーニョ『Samsara』ラオスの老女、ザンジバルの少女に転生する
16 . Szabó Sarolta&Bánóczki Tibor『White Plastic Sky』ハンガリー、50歳で木に変えられる世界で
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