サヴェリオ・コスタンツォ『Finally Dawn』中途半端に現代的で熱と勢いのないイタリア版"バビロン"
2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。サヴェリオ・コスタンツォ長編五作目。1950年代ローマ、主人公ミモザは家族と慎ましく暮らしている。彼女は無気力な警察官アルフレードと婚約しているが、彼には全く興味がなく、母親と妹アイリスと三人で映画館へ行くことが唯一の逃避だった。ある日、映画館で怪しいスカウトマンに出会った姉妹は、彼に導かれてアメリカ人女優ジョゼフィーン・エスペラント主演の古代エジプトを舞台とした作品にエキストラとして参加することになる。更にミモザはひょんなことからジョゼフィーンに連れ回されることになり、華やかな世界の裏側を垣間見ることになる。何者かになりたいミモザが旧来的な破滅型スターであるジョゼフィーンを横で見つつ、近所で起こったブラックダリアすぎるきな臭い殺人事件が脳裏にチラつくという構成で、驚くほど緊張感のない薄っぺらで奥行きもなく、それを誤魔化しきれる代わりのもの(演技/音楽/編集/衣装美術等々)もない、熱と勢いのない『バビロン』という感じ。チネチッタで撮影してるエジプト映画もエキストラ少なすぎるし衣装も貧相で泣けてくるレベルなので映画のつまらなさの歯止めにはならず。ジョゼフィーンはおそらくエリザベス・テイラーを基にしているだろうし、アリダ・ヴァリなんかは本名で登場するが、全員が中途半端に現代的なのでチグハグな印象を受ける(レイチェル・セノットがZ世代すぎるという評に爆笑)。というか、そもそもハリウッド云々じゃなくてイタリア国内の話にすればいいのに。正直何も良いところが見つからないが、これも地元枠選出の実力か。ちなみに、ヴェネツィアでのプレミア公開時は140分あったみたいで、"流石に長すぎるから20分削ったらもっとメリハリ出るのでは?"とは言われてたが、120分版でもメリハリないっすよ。あと100分は削っていいよ。
・作品データ
原題:Finalmente l'alba
上映時間:119分
監督:Saverio Costanzo
製作:2023年(イタリア)
・評価:30点
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