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ギヨーム・ブラック『So Long』"貴方が送ることの出来る最大の贈り物は、貴方の時間である"

ギヨーム・ブラック最新作品。区分はドキュメンタリー作品となっているが、登場人物たちの自然な距離感を見るに、その辺りは意図的に曖昧にされているのだろう。登場人物たちはディの高校に通う生徒たち、彼らの多くは寮で暮らしている。彼らは授業や休み時間に多くのことを議論して、答えのない疑問に挑み続ける。彼ら彼女らが議論する合間に挟まれるのは身体の躍動、ヒッチハイクに水遊びに踊りにマットレスドミノ倒しに夜間忍び込みに抗議活動である。そのすべてが同じ直線上に配置されているのが上手い。また、生徒たちの中で4人だけフィーチャーされ、彼女たちはそれぞれの人生を語っていく。その共通点は家族との距離の取り方である。久々に会った母親と二人暮らしをすることになったオーロルは、どうやって一緒に暮らしていたか忘れてしまっていて、二度目の二人暮らしを続けることが出来なかった。船の上で生きることを選んだ父親と幼少期を過ごしたヌールは、港々で似た生活をする子供たちと瞬間的な友人関係を結ぶ以外に世界を知らなかった。数ヶ月前に姉が失踪してしまったディアーヌは、常にアクティブに動いていた姉に憧れながらも十分な時間を過ごせずどこか遠くに感じていた。こうした挿話は冒頭にあった"高校卒業して離れ離れになっても友人関係は続くのか?"という疑問への回答のようでもある。続くかもしれないし続かないかもしれない、遙か未来に断たれるかもしれないし、更にその先で復活するかもしれない。ともすれば投げやりにも聞こえる結論が、過去よりも未来の方が長いであろう高校生の視点から見ても希望的に思えるのは、彼らの日常をゆったりと共有するおかげだろうか。今この瞬間に共有した時間は消えないのだ。ある生徒は年老いた教師との会話の中でこんなことを言う。"貴方が送ることが出来る最大の贈り物は、貴方が絶対に取り戻せない人生の一部という意味で、貴方の時間である"と。彼ら彼女らの何気ない時間を共有し、受け渡されたような感覚にすら至る本作品の核はこの言葉にあるだろう。

・作品データ

原題:Ce n'est qu'un au revoir
上映時間:63分
監督:Guillaume Brac
製作:2024年(フランス)

・評価:60点

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