Saulė Bliuvaitė『Toxic』リトアニア、少女たちを取り囲む"有害な"価値観たち
2024年ロカルノ映画祭コンペ部門選出作品、金豹賞受賞作品。Saulė Bliuvaitė長編一作目。冒頭から強烈だ。母親に捨てられ、殺伐とした工業都市で祖母と二人で暮らす13歳のマリアは、足が悪いため歩く際に片足を軽く引き摺ることから除け者にされてきた。そんな彼女がプールでジーンズを盗られたと更衣室で怒るシーンから映画は始まる。ロッカーより少し高めに設置されたカメラが寄る辺なき孤独を感じるマリアを小さく映し出す。作中では接写か高い視点から見渡すショットが多く、ある意味で前者は近視眼的な彼女たちの視点、後者は下記の通りの"TOXIC"な世界から観察するような視点を持っているのだろう。世界の大きさに比べて、彼女たちの存在はあまりにも小さいが、二人から見れば自分のほうが大きいのだ。冒頭のシーンで同じ更衣室に居てジーンズ泥棒の疑いを掛けられた同い年のクリスティナと後に親しくなり、二人は生徒を集めていたモデル学校に入学する。題名"TOXIC"というのは、たった13歳の彼女たちに性的魅力を見出し搾取しようとする社会の価値観、彼女たちに過酷なボディメイクを強いる美の価値観、或いは物理的に手を出そうとする男たちの存在など様々な要素に掛かっていて、映画もそれに併せて反復横跳びするように小さな断片を並べていく。基本的にはこの土地にも(他人と)遊ぶことにも慣れてないマリアがクリスティナに無言で付き従うという感じだが、なんだかんだマリアは危ないことはしないし寸前で躱すなどの危機回避能力も高いのが興味深い。それが外から来た人間とずっと内側にいた人間の差ということか?二人がモデル学校を志望した理由は明示されないが、とにかくゴミだらけで不衛生で娯楽とかなんもなさそうな空間なので、出来るだけ早く"大人"になりってここから出ていきたいという思いがあったのだろう(そして近くにいる"大人"というのが、マリアの場合は自分を捨てた母親であり、クリスティナの場合は若い恋人といちゃつく父親であり云々)。クリスティナが煙草を吸いながらバービー人形の髪を整えているシーンなんか象徴的だ。ただ、マリアとクリスティナの内面に迫るわけではなく、単に搾取的でTOXICな情景を並べただけで、表面的な関心しか抱いていないように思えるのが難点。足が悪いというのもマリアが疎外される分かりやすい理由付けというだけにしか見えないのも残念。
追記
少女たちが社会の悪に晒されること、大人世代が壊滅的というのが、リトアニア映画史における巨匠アルーナス・ジェブリウーナス(Arūnas Žebriūnas)の作品群に似ている。やはり、リトアニア映画史を参照し、その血脈を受け継いでいるのだろう。
・作品データ
原題:Akiplėša
上映時間:99分
監督:Saulė Bliuvaitė
製作:2024年(リトアニア)
・評価:60点
この記事が参加している募集
よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!