João Canijo『Living Bad』ポルトガル、子供を支配したい毒親三部作
2023年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。ジョアン・カニホ(João Canijo)長編最新作二部作。同じ映画祭のコンペ部門に出品された『Bad Living』と対になっており、同作ではホテル経営をする親子三代、本作品ではそのホテルにやって来た客の目線で同じ時間の出来事を描いている。本作品は似たような境遇にある三組の客を三部構成で描いており、客同士の直接的な関わりはないものの、同じシーンを別の視点で見ることが出来るという点で『Bad Living』を別視点で3回見るような形式となっている。第一部"火遊び"ではインフルエンサーのカミラとカメラマンのハイメが中心となる。ハイメの親友ヴィトリノが二人の家に居候しており、カミラとの距離も近いらしく、インスタに二人だけの写真をあげたりしているのだが、それをハイメの母親がいちいち報告してくるのが絶妙にキモい。『Bad Living』も他二篇も毒親についての物語だったが、第一部では画面に登場すらしないのだ。第二部"ペリカン"では資産家一家の母親エリサと娘グラサとその婿アレクサンドルが中心となる。母娘の関係は『Bad Living』のサラとピエダーデの関係とほぼ一緒で、二人は顔を合わせる度に喧嘩しているが、ここでは娘婿=男が登場し、しかもエリサとデキてるという最低の展開まで加わる。エリサは最近自殺した夫のことも、グラサを含めた二人の子供のことも嫌っていて、グラサには"子供を生むのがお前の仕事だ"とまで言ってのける。ここでは母親側の視点から毒親の心理を深堀りしていく。第三部"母の愛"では、詩人アリスと女優ジュリアのカップルとジュリアの母親が中心となる。アリスが勝手に応募したTVのオーディションに気乗りしないジュリアは、彼女の人生を支配しようとあれこれ口を出す母親の言葉に抵抗しない。代わりにアリスが戦って消耗していくが、ジュリアはどちらかを選ぶことは出来ない。全体を通して、毒母が子供を自分の所有物として捉えている印象があり、思い通りに動かない彼らをどうにかして矯正しようとする話だったのは、『Bad Living』とは正反対だ。また、『Bad Living』では、親子三代の彷徨う愛を迷宮のようなホテルの構造と組み合わせて立体化していたが、本作品では屋外からガラス越しに屋内を撮るショットが多く、遠くから三組が過ごす部屋を俯瞰しているショットもあり、彼らを文字通り"観察"しているかのようでもあった。物語との視覚的融合という意味では『Bad Living』に軍配。
・作品データ
原題:Viver Mal
上映時間:124分
監督:João Canijo
製作:2023年(フランス, ポルトガル)
・評価:70点
・ベルリン映画祭2023 その他の作品
★コンペティション部門選出作品
1 . エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン『ミツバチと私』スペイン、ルチアとその家族について
2 . クリスティアン・ペッツォルト『Afire』ドイツ、不機嫌な小説家を救えるのは愛!
3 . リウ・ジエン『アートカレッジ1994』中国、芸術と未来に惑う青年たちの肖像
4 . João Canijo『Bad Living』ポルトガル、愛が彷徨う迷宮ホテルで
5 . マット・ジョンソン『ブラックベリー』カナダ、BlackBerry帝国の栄枯盛衰物語
6 . Giacomo Abbruzzese『Disco Boy』正面から"美しき仕事"をパクってみた
8 . アイヴァン・セン『Limbo』オーストラリア、未解決事件によって時間の止まった人々
9 . ジョン・トレンゴーブ『Manodrome』インセル集会に出てみたら…
10 . アンゲラ・シャーネレク『ミュージック』人間に漸近する神話のイデア
12 . セリーヌ・ソン『パスト ライブス / 再会』輪廻転生の恋と現世の恋
13 . フィリップ・ガレル『ある人形使い一家の肖像』ガレル家子供世代の将来は如何に
14 . チャン・リュル『白塔の光』中国、心の中の"影なき塔"
15 . エミリー・アテフ『密会 少女と馬飼いの男』ドイツ、おじさんに恋する少女の物語
16 . ロルフ・デ・ヒーア『サバイバル』植民地主義と人種差別への諦めと絶望
17 . 新海誠『すずめの戸締まり』同列に並ぶ被災地と遊園地
18 . クリストフ・ホーホホイスラー『Till the End of the Night』トランスフォビア刑事、トランス女性と潜入捜査する
19 . リラ・アヴィレス『夏の終わりに願うこと』メキシコ、日常を演じようとする家族の悲しみ
★エンカウンターズ部門選出作品
1 . ウー・ラン『雪雲』中国、"不在"を抱えた都市への鎮魂歌
2 . ダスティン・ガイ・デファ『The Adults』大人になった三人の子供たち
7 . バス・ドゥヴォス『Here』ベルギー、世界と出会い直す魔法
9 . ホン・サンス『水の中で』ほぼ全編ピンボケ映画
11 . João Canijo『Living Bad』ポルトガル、子供を支配したい毒親三部作
12 . ポール・B・プレシアド『Orlando, My Political Biography』身体は政治的虚構だ
13 . ロイス・パティーニョ『サムサラ』ラオスの老女、ザンジバルの少女に転生する
16 . Szabó Sarolta&Bánóczki Tibor『White Plastic Sky』ハンガリー、50歳で木に変えられる世界で
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