ラマタ・トゥレイ・シー『バネルとアダマ』セネガル、村の規範との戦い…?
2023年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。2024年アカデミー国際長編映画賞セネガル代表。ラマタ・トゥレイ・シー(Ramata-Toulaye Sy)長編一作目。ラインナップ発表前日に"ある視点"部門からコンペに格上げされたらしく、個人的には問題のあったマイウェン作品と交代したのではないかと考えている。監督はフランスの国立高等映像音響芸術学校(通称ラ・フェミス)の生徒で、本作品の脚本は四年時の卒業製作で書いた作品だそうな。恐らくそこで知り合ったであろうトルコ人監督コンビの『シベル』には脚本で参加している。閑話休題、本作品はセネガルの田舎村で愛し合う二人の若者バネルとアダマを描いている。二人はあまりにもラブラブなので村の外に新しい家を勝手に作って一緒に暮らそうとしている。そんな二人には村の掟が邪魔で仕方ない。男には男の、女には女の仕事があり、一緒にいる時間が寝る前だけしかないなんて許せない。しかも、そんな状況でさっさと子供作れしか言わない母親なんか、バネルにとっては余計に邪魔でしかない。一方のアダマは、父と兄の死によって族長になる必要に迫られるが、これを拒絶する。すると何の因果か雨が振らなくなってしまい、アダマの信念は揺らいでいく。ここまで好奇心を欠片も刺激しない映画も久々というほど心惹かれなかったが、その大きな要因は物語の求心力のなさと鈍重さだろう。基本的にはバネルを色んな場所に動かして"嫌だ"と言わせるのをひたすら繰り返す上に、次期族長問題と雨降らない問題が重なり、それが規範に従わないバネルへの同調圧力に加算されるという構造になっている。そもそも、アダマが族長という責務から逃げようとする背景もよく分からんので、バネルが吹き込んだというバネル母の言葉が、他の"子供産め"だのなんだのという言葉と同じカテゴリなのかは謎めいている。それに、バネルが規範に反抗するのと次期族長問題と雨降らない問題が最後まで全部一緒くたに語られるので、かなり強引な印象を受ける。それを中和するように差し込んだテレンス・マリックみたいなショットとかフレア入れたセンス皆無なショットとかは自己陶酔にしか見えず寧ろ逆効果だった。唯一の美点は上映時間が短いこと。87分でも長いが、これで2時間もあったらと思うとゾッとする。
インタビューによると、これはバネルの物語であり、女性/黒人女性/アフリカ人としての彼女の戦いの物語だ、としつつ、"愛の情熱がもたらす女性の狂気は私の扱いたかったテーマだ"とトンチンカンなことを言っていた。余程腕に自身がない限り、それらを安易に混ぜちゃいけないんじゃないか?
・作品データ
原題:Banel & Adama
上映時間:87分
監督:Ramata-Toulaye Sy
製作:2023年(フランス, マリ, セネガル)
・評価:40点
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