ヤロミル・イレシュ『The Cry』それは産声、或いは叫び声
カンヌ映画祭のコンペに出品されたイレシュの長編一作目。映画は出産を控えた若い夫婦の一日を描いている。産院に入院した妻イヴァナは、同室になった妊婦たちとの会話を聞きながら、夫スラヴェクとの出会いから今に至るまでを思い返す。仕事に出た夫スラヴェクは、妻の出産に思考を奪われながら、テレビの修理工として派遣される仕事先を回って同時代の社会を垣間見る。東西冷戦による核戦争を前提とした避難訓練を行う小学校、早口でまくし立てた映画評を口述筆記させる映画評論家、なぜかスラヴェクを誘惑しようとする美女、テレビで世界情勢を眺めながらスラヴェクの名字を褒めるブルジョワ男など、テレビの所有者たちはある一定以上の範囲内で多様であり、思い出したかのように映画館へと足を運べば、テレビのない時代の名残のように延々とコマーシャルを流し続けることに飽きた観客たちが映し出される。スラヴェクは基本的には傍観者であり(バカにされた黒人留学生について怒るシーンのみ社会に介入する)、そんな彼が"世界を見せる"テレビを修復して回るという巧みな設定に唸ってしまう。彼は人々と社会をつなげて回る存在であり、彼を介して我々もまた映画と、そして時代を超えて当時の社会と繋がることが出来るのだ。
途中で映像が静止画になる場面が何回か訪れるのだが、それが最後にアルバムを見るという展開で回収されるのがとても良い。それを含めた編集や撮影はヌーヴェルヴァーグっぽいが、影響があったかどうかは定かでないらしい。
・作品データ
原題:Křik
上映時間:80分
監督:Jaromil Jireš
製作:1964年(チェコスロバキア)
・評価:70点
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