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マティアス・ピニェイロ『You Burn Me』アルゼンチン、視覚化された詩
2024年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。マティアス・ピニェイロ長編八作目。1947年に出版されたチェーザレ・パヴェーゼによる神話的対話篇集『レウコとの対話』の第7章"波の泡"に、同作の登場人物であるサッフォーの詩などを混ぜて再構成された一作。元々はストローブ=ユイレの作品(『雲から抵抗へ』など?)を介して原作に出会ったそうだが、内容が堅すぎて読破出来ず、唯一引っ掛かったのがこの章だったらしい(しかもストローブ=ユイレは未映画化の章)。ただ、映画化にあたっては前作までの手法は全く使えないと判断し、撮影したショットをプリントし、スクロール状にしたスクリプトに貼っていくことで流れを掴んでいったとのこと。一連の製作背景をハイテンションで語る姿は映画より面白かった。映画自体は映像詩、というか、詩を映像にする試み、といったところか。教養がないのと文化的背景の違いで内容に関してはさっぱりだが、詩において文字が持つ文字以上の情報を視覚的に表現するために、反復される言葉の背景を変えてみたり、同じシーンを反復することで前後関係から新たな意味を付与してみたり、あるいは監督の言う"記憶ゲーム"として詩の文字/言語的な情報を視覚映像に置換したりと中々興味深い試みを行っていた。ただ、題名を出す際の手と水道水のシーンは、アンゲラ・シャーネレク『ミュージック』を思い出し、あの映画では同じように静かなシーンで更に色々な情報や感情が乗っていたことを考えると、本作品は形式に拘りすぎた結果、情緒を失ってしまっていると思うなど。詩の肝であり表現それ自体や読者それぞれの感覚の共有の難しさはそこにあるのではないか。そして、こんな感じに裏の意図を簡単に読み取れて言語化出来るようでは、まだまだ頭でっかちな映像というレベルに終始していると思われる。結局は他人の詩を扱うから、エモーションとフォーマットの間に解釈が挟まってしまうのだ。詩を映像化するなら自作のものを映像前提で作るべきである。
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・作品データ
原題:Tú me abrasas
上映時間:64分
監督:Matías Piñeiro
製作:2024年(アルゼンチン)
・評価:70点
・ベルリン映画祭2024 その他の作品
★コンペティション部門選出作品
3 . アブデラマン・シサコ『Black Tea』広州のアフリカ系移民街に暮らす人々の物語
4 . マティ・ディオップ『ダホメ』ベナンに戻ってきた美術品たちについて
5 . ヴェロニカ・フランツ&セヴリン・フィアラ『デビルズ・バス』オーストリア、追い詰められた女たち
6 . アーロン・シンバーグ『A Different Man』"人生におけるすべての不幸は、現実を受け入れないことから生じる"
8 . ブリュノ・デュモン『The Empire』フランドルの"スター・ウォーズ"は広義SF映画のカリカチュア
10 . マルゲリータ・ヴィカーリオ『グローリア!』音楽を理論や楽譜や権力や階級から解放する映画
12 . アロンソ・ルイスパラシオス『La Cocina』"アメリカを敵にするのは簡単だが友人になるのは難しい"
13 . マリヤム・モガッダム&ベタシュ・サナイハ『私の好きなケーキ』イラン、老女の恋は泡沫の夢
14 . ネルソン・カルロ・デ・ロス・サントス・アリアス『ペペ』ドミニカ共和国、カバのペペの残留思念が語る物語
15 . ミン・バハドゥル・バム『Shambhala』ネパール、シャンバラへゆく者
16 . ティム・ミーランツ『Small Things Like These』アイルランド、ある男のささやかな決断
17 . グスタフ・モーラー『Sons』デンマーク、刑務所の"息子たち"
19 . ホン・サンス『A Traveler's Needs』マッコリ大好きナチュラルサイコ教師ユペール
20 . Meryam Joobeur『Who Do I Belong To』チュニジア、息子を"失った"母親の心象世界
★エンカウンターズ部門選出作品
4 . ギヨーム・カイヨー&ベン・ラッセル『ダイレクト・アクション』フランス北西部ZADで抵抗する人々の生活と活動
5 . ルート・ベッカーマン『ウィーン10区、ファヴォリーテン』オーストリア、イルカイ先生の教室
10 . チウ・ヤン『空室の女』中国、機能不全家族を描く機能不全な映画
12 . Kazik Radwanski『Matt and Mara』カナダ、マットと二人のあの時間
13 . ネレ・ウォーラッツ『目は開けたままで』ブラジル、"翻訳している相手のことを本当に理解してる?"
15 . マティアス・ピニェイロ『You Burn Me』アルゼンチン、視覚化された詩
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