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Arūnas Žebriūnas『The Beautiful Girl』リトアニア、時が動けど汝は美しい

傑作。アルーナス・ジェブリウーナス(Arūnas Žebriūnas)長編四作目。公園で子供たちの輪の中をぐるぐると舞い回る少女インガを追うカメラ。軽やかな音楽の中でおどけたような表情をしながら華麗に舞い踊るインガに向けて、彼女を囲む同年代の少年少女たちは、次々と彼女を褒め称える言葉を投げかける。これは子供たちの"美しい少女"という遊びであるが、外世界を知らずに純真無垢な子供世界に浸る彼らの状況を端的に示している。そんな中、近所に少年が引っ越してくる。彼は子供たちと交わろうとせず、子供たちも彼を爪弾きにするが、彼はインガに"どこがキレイなんだよ"と捨て台詞を吐く。これが純真無垢で平和だった彼女の世界を強烈に揺さぶっていく。

少年は箒の枝を花瓶に指して、それがヨモギであると言い張る。インガはそれが気になり、インガのことが好きだった近所の少年はインガのために花を咲かせる箒を探し回る。これらの描写は三角関係を難なく導入するためとして機能しながら、無知故にすぐに人を信じてしまうインガの危うさを同時に示している。また、インガは父親と同居しておらず、厭世的で疲れ果てた母親が夜遅くまでリビングで仕事用のタイプライターを叩いている。そして、留守番をしているインガに対して昼間に誰か訪ねてこなかったか帰宅する度に訊いてくるのだ。インガは母親の前では背伸びをして、良い子を演じることで、心配させまいとしている。それら全ての設定がラストに結集し、"母には幸せになってほしい"というインガの決断が、インガ自身も救うことになるのが美しい。

インガの母親の絶望具合として、"人はどこか違う場所なら幸せになれると思っているが、幸せな人はどこにいても幸せなんだ"という台詞があった。芯を食いすぎてて辛い。

・作品データ

原題:Gražuolė
上映時間:71分
監督:Arūnas Žebriūnas
製作:1969年(リトアニア)

・評価:80点

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