Arvo Kruusement『Summer』ぜんぶアルノのせい
Arvo Kruusement長編三作目。20世紀初頭、エストニアの小さな田舎町の青年たちを描いたオスカル・ルッツ(Oskar Luts)の半自伝的小説群"四季"シリーズの映画化作品二本目。前作『Spring』から7年経ち、監督以下スタッフも俳優も全員同じ人が揃って同じ人物を演じ、俳優たち個人の成長とキャラの成長が重なっている。時は20世紀初頭、お馴染みの彼らも20代になった。前作の主人公はインテリナイーヴな優等生アルノだったが、本作品では悪ガキのトゥーツが主人公となる。物語はロシアで農業を学んでいたトゥーツが故郷に帰って来る場面から始まる。久々に帰ってきた故郷は、相変わらず昔ながらの生活を続けており、トゥーツは改革に乗り出す。また、前作では散々イジられていたポンコツのキールも成長して仕立て屋になっていた。ある日、ラヤの屋敷のパーティに呼ばれた二人は、成長した我らの守護天使テーレに遭遇する。彼女は都会で勉強中という恋人アルノを差し置いてこんなことを言う。私は農夫と結婚するんだ!と。それを本気にしたキールは"俺も農夫になる!"と息巻いてテーレとの結婚宣言をし、一歩遅れたトゥーツをやきもきさせる…という謎の三角関係に発展する。前作でも不思議と本筋との絡みがなかったアルノくんはどこ…?一応前作の主人公だよ…?と思ってたら中盤に突如登場して"もうあの頃の俺達じゃないんだ…"と吐いてテーレを振って退場(ヘタレなのは相変わらず)。そういうとこだぞ、アルノ。テーレはずっとアルノを待っていて、待たされすぎてキールを唆してみたりトゥーツに告白してみたりと元同級生たちの心を振り回しまくる。裏主人公は間違いなく彼女だろう。アルノめ、罪な男だ。最後はしれっと結婚式に参加してたし、マジでコイツなんなん。
物語には、ロシアから持ち帰った農地開拓への技術導入、農夫と結婚したいという発言など初期ソ連映画の農民礼賛技術礼賛系映画の片鱗が垣間見える。原作は1918-19年に刊行されており、十月革命の影響をモロに受けているのが分かる。ただ、映画化において原作がどこまで意識されているのかは謎だが、かなり雑なロマンス映画という印象を受けた。ちなみに、『Summer』以降の原作は大衆のニーズに寄せすぎて逆に人気を失ったらしい。分かる気がする。
・作品データ
原題:Suvi
上映時間:80分
監督:Arvo Kruusement
製作:1976年(エストニア)
・評価:60点
・"四季"四部作 その他の作品
1 . Arvo Kruusement『Spring』エストニア、真実を語りたがる悪党はいない (1969)
2 . Arvo Kruusement『Summer』ぜんぶアルノのせい (1976)
・エストニア映画TOP10 とその他の作品
1 . Arvo Kruusement『Spring』エストニア、真実を語りたがる悪党はいない (1969)
2 . Kaljo Kiisk『Madness』エストニア、精神病院にいる英国のスパイは誰だ? (1969)
3 . Peeter Simm『The Ideal Landscape』エストニア、種蒔きが…終わりません!! (1981)
4 . Grigori Kromanov『The Last Relic』ロビン・フッド、エストニアの大地を駆ける (1969)
5 . Sulev Keedus『Georgica』エストニア、見捨てられた孤島で二人… (1998)
6 . Kaljo Kiisk『The Adventurer / Happy-Go-Lucky』エストニア、世界の支配者ニペルナーディ (1983)
7 . Grigori Kromanov『Dead Mountaineer's Hotel』密室ホテル殺人事件、光と闇のSFノワール (1979)
8 . Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)
9 . Grigori Kromanov & Jüri Müür『The Misadventures of the New Satan』悪魔よ、人間が救済するに足る存在と証明せよ (1964)
10 . Olav Neuland『Nest of Winds』エストニア、世界に翻弄される農夫の絶望 (1979)
♪ その他のエストニア映画 ♪ (公開年順)
★ Leida Laius『The Milkman of Mäeküla』エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路 (1965)
★ Kaljo Kiisk『The Midday Ferry』ある日、燃え上がるフェリーにて (1967)
★ Veljo Käsper『Postmark from Vienna』エストニア、切手を巡る"真実"ゲーム (1968)
★ Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森 (1968)
★ Virve Aruoja & Jaan Tooming『Colorful Dreams』エストニア、カティのワンダーランドを垣間見る (1975)
★ Arvo Kruusement『Summer』ぜんぶアルノのせい (1976)
★ Leida Laius『The Master of Kõrboja』エストニア、湖が導く出会いと別れ (1980)
★ Helle Karis-Murdmaa『Bumpy』エストニアの"ヘンゼルとグレーテル"は平和を訴える (1981)
★ Peeter Simm『Arabella, the Pirate's Daughter』海賊の娘、善悪を知る (1982)
★ ヴェイコ・オウンプー『Autumn Ball』エストニア、タリンの孤独な人たち (2007)
★ ライナル・サルネ『Where Souls Go』エストニア、悪魔へのお願いを取り消したいんですが (2007)
★ ライナル・サルネ『The Idiot』全時代へ一般化されたエストニアの"白痴" (2011)
★ ライナル・サルネ『ノベンバー』現実と魔界が交錯するアニミズム的幻想世界 (2017)