ドゥシャン・ハナーク『Rose Tinted Dreams』スロヴァキア、幸福の甘さと脆さについて
大傑作。ドゥシャン・ハナーク長編三作目。スロヴァキア映画鑑賞会企画。本作品はスロヴァキアの村で郵便配達のバイトをしている青年ヤクブと近くの空き地に暮らすロマの少女ヨランカのロマンス物語である。村人たちはロマの人々を、ロマの人々は村人たちを毛嫌いしているという、いわゆる『ロミオとジュリエット』的な恋愛を描いている。『322』と打って変わってゆったりとした語り口を以て、村での日常生活と二人の恋模様が語られるため、全体的な印象としては変態のいないマイルドなイジー・メンツェルといった感じ(イジー・メンツェルのパロディという説もあり)で、そこに村人によるシビアなロマ差別とロマ側からの警戒が差し込まれていく。前半1時間は詩的なロマンチシズム溢れる映像で綴られていて、若干眠気を誘うほど甘ったるいのだが、後半30分で現実が二人に牙を剥く。偏見の多い地元では暮らせないと判断した二人は都会に移るが、ヨランカがロマであることから部屋を借りられない。そして、ヤクブの中にあるロマへの差別意識も表面化してくる。村では彼ら以外にも様々なカップルや夫婦の物語があり、なんならヤクブの友人?はロマ女性との恋愛を成就させているわけで、必ずしも時代性によって恋愛が成立しないという描写はされておらず、結局は互いが互いを信じきれずに破綻してしまったのだ。しかし、それでもトーンは変わらない。彼らは敵意の中で自らの世界に浸って薔薇色に染まった甘い夢を見続けているのだ。
・作品データ
原題:Ružové sny
上映時間:80分
監督:Dušan Hanák
製作:1977年(スロヴァキア)
・評価:90点
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