フリーヌル・パルマソン『ゴッドランド / GODLAND』アイスランドの大地に神の言葉は届くのか
2024年アカデミー国際長編映画賞アイスランド代表。フリーヌル・パルマソン長編三作目。アイスランドで発見された木箱の中に収められていた、デンマークの司祭が撮影した7枚の湿板写真にインスパイアされて製作された一作。画面もフィルムみたいな縁取りがあり、一枚絵に命かけてるような構図や、湿板写真的な人物を中心に置いた構図、そして人間が敵うはずなどないアイスランドの圧倒的な大自然を収める構図を多用している。19世紀末、若き神父ルーカスはデンマークからアイスランドへ派遣され、その地で教会を建てるという任務を言い渡される。火山が噴火した影響で東海岸から目的地である西側に人が移動している、雪が降るまでには完成させて欲しいが今は夏で白夜なので頑張れ、困難な仕事だが最初期の使徒たちもそうだったので君も出来る、現地の慣習に従え、と無理難題を押し付けられたルーカスは、そのまま船でアイスランドへと向かう。船は死ぬほど揺れて気分も悪くなり、通訳に教えてもらったアイスランド語はアホみたいに難しいので習得を断念するなど、幸先不安なスタートを切る。現地ではガイドのラグナルに会うが、そもそもルーカスはガイドを金で雇うことに反対しており、アイスランド語の習得も断念し、開始10分ほどにしてもはや現地に馴染むことは諦めたような感じなので、ひたすら対立していく。この対立、及びルーカスの高慢な態度、未開の地に有難きキリスト教を齎すという考えは、当時のデンマークのアイスランドに対する考えそのものなんだろう。当然、ラグナルはアイスランド、及びその大地そのものを代表するかのような、無骨で荒々しい男として描かれている。
本作品は緩い二部構成になっており、前半は目的地までの厳しい旅路、後半は目的地での教会建設と現地での出来事を綴っている。前半はひたすら自然を引きで撮り、人間が小さく移動する構図を多用している。ひたすら何もなく、岩と緑の絨毯と冷たい水だけで生成された広大で空虚な空間を、ただ歩き続けるだけ。後に"どうして船で来なかったんだ?"と至極真っ当な質問をされ"様々な人に会いたかった"とルーカスは答えているが、質問者が"どんな?"とすぐに返すのからも明らかな通り、自然が強すぎるのだ。そんな土地で神の言葉を伝えられるはずもないのは明白だ。ルーカスの無謀によって通訳が死に、持ってきた十字架も流されるが、旅は続けられる。まるで『アギーレ / 神の怒り』のような純粋な狂気を孕んでいる。
後半は目的地の有力者カールとその二人の娘を中心に語られる。三人はデンマークからの移住者で、特に長女アンナは不毛の地であるアイスランドを嫌っていて、基本的にデンマーク語を話している(ちなみに、アンナの妹イダ役を演じた Ída Mekkín Hlynsdóttir は監督の娘さんとのこと)。軟弱なルーカスはここで初めて人の心に触れたような気がして、すぐに恋に落ちる。しかし、もっと興味深いのは、教会建設の労働者に加わったラグナルが、ルーカスに歩み寄りを見せることだろう。その上で、宗教者としてのルーカスを挑発し、デンマーク人としての目線とアイスランドという土地そのものを意地悪く浮き彫りにする。
また、パルマソンの短編『Nest』みたいなタイムラプスが登場し、あっという間に死体が骨になっていく様、上に雪が積もり、解けて、花が咲く様が一瞬にして描かれ、ここでも全てを吸収するかのような自然の強さを提示する。その上で、あれだけアイスランドを見下していたルーカスをも吸収してしまうような、果てしない恐ろしさを提示している。
・作品データ
原題:Vanskabte Land / Volaða Land
上映時間:143分
監督:Hlynur Pálmason
製作:2022年(デンマーク, フランス, アイスランド, スウェーデン)