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Živko Nikolić『Unseen Wonder』モンテネグロ、アメリカから来た女と沈みゆく村

傑作。ジヴコ・ニコリッチ(Živko Nikolić)長編四作目。湖で漁をして生活する小さな村に、かつて村を出て渡米した男の娘が帰って来る。男たちは皆、このグラマーなブロンド女に鼻の下を伸ばして我先にと奪いあい、女たちは陰口を叩く。という、ニコリッチの要素を全部まとめたみたいな作品である。もちろん、地元の権力者たちはクズばかりで、祈りを捧げると称して頼ってきた女性をレイプする神父(慣れたように罰を受けるのがよりカスっぷりを強調)や、自分の都合のために湖を干上がらせようとしてる地主の主に二人が登場。"アメリカ女"とだけ呼ばれる主人公の目的は、酒場に改造されたかつての実家を取り戻すことで、そのためには手段も選ばない。そしてやはり本作品でも、ニコリッチの妻Vesna Pećanacが演じる、姑に嫌味を言われ続けても我慢してしまう嫁クルスティニャが主人公と対照的な存在として登場する。彼女の存在はいかにして村において女性たちが男性優位の価値観に押し込められてきたか(なんと男性的な振る舞いをする姑には髭が生えているのだ)を象徴的に描き出している。そうして、小さな村は男たちのチンポと地主の捕らぬ狸の皮算用と主人公の復讐というプロットが複雑に混ざりあった地獄へと様変わりしていくのだ。主人公が"西欧的"な振る舞いをするわけだが、それが決して盲目的な憧れの対象としても有益な存在としても描かれないというシビアな目線は、次作『The Beuty of Vice』にも共通していて興味深い。男同士では互いの足の引っ張り合い、女を見れば支配下に置こうとする人々の暮らす村の行く末は唯一つ、そのユートピア・イデオロギーは"沈没"するしかないのである。

・作品データ

原題:Čudo neviđeno
上映時間:92分
監督:Živko Nikolić
製作:1984年(モンテネグロ)

・評価:80点

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