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ジャ・ジャンクー『新世紀ロマンティクス』"帰れない二人"の双子の弟
2024年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。ジャ・ジャンクー長編10作目。2001年から"デジタルカメラを持って撮影する人"という題の企画を温めていたという監督は、2年くらいで終わるだろうと思いながら撮影をしていたらしい。新世紀を迎えた2001年は、中国のWTO加盟などもあり、何かを変えられるかもしれないという可能性を感じていたエネルギッシュな時代だったとのこと。その後は思い出したら撮影し、企画を忘れを繰り返していた中、コロナ禍になったことで"コロナ以後は新しい時代になる"と感じた監督が"どのようにして今の自分や社会があるのか"を示すため、主軸となる物語を与え、長い企画を作品に変える決意をしたようだ。物語は三部構成になっており、2001年のダートンで始まる。このパートは"もっている素材をノンリニアに並べてみた"という具合に、フィクションとドキュメンタリー、当時の映像と撮り直した?映像(画角が変わりまくってた)などを軽やかに飛び越え続けるという、実にラディカルなパートだ。冒頭から集会所でセルフカラオケを始めるおば様方の長回しだし、主人公はダンサーだし、台詞も意図的に省かれているので、音や音楽、それに付随する動作に目と耳を澄ませる構成になっているのが良い。第二部は2006年に、ジャ・ジャンクーではお馴染みの三峡ダムに沈む地域を訪れてビンを探すという、あまりにも前作『帰れない二人』に似た展開に。というか全体的な構成は前作と近く、双子の弟みたいな作品だった。第三部はようやく観たことないパートとして、2022年のコロナ禍で起こったことを示す。全員がマスクをして表情も読み取れず、検査所に並ぶために自由行動はある程度制限され、街中には常に消毒して回る防護服の人がおり、それでも人はダンスホールに集い、路上ライブに足を止める。三部を通して一攫千金商売や文化受容、技術革新の変化なんかを捉え続けてきたわけで、主軸となる恋愛物語がそれを邪魔しないよう無音にされたのも納得。過去作をそんなに観てないので、第二部とか特に既存の作品を別の文脈で再生成したのかと思って興奮しながら観てたんだが、そんなことはなさそう…?まぁ既視感に溢れると言われるとその通りというか、機械が生成したジャ・ジャンクーぽいものみたいな感じはしちゃうよね…
・作品データ
原題:风流一代 / Caught by the Tides
上映時間:112分
監督:Jia Zhangke
製作:2024年(中国, フランス, 日本)
・評価:70点
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